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カイトを飛ばす人がいた。正確には、人は見えなかったら、カイトが飛んでいたのだった。悠々と泳いでいるかと思うと、あっという間に見えなくなる。どうしたのかなと思っていると、また空に戻ってくる。木々の向こうで糸の端を握っている人がいるのだろう、その木の向こう側に何度も消えてはまた戻ってきた。糸を握る手に、どれほどの力を込めているのかと想像した。

凧あげをしたのは、幼稚園の頃か、小学校に入ってからだったか、初めてのことにわくわくしていたのだけれど、父があげてくれた凧のその糸を持たせてもらったら、ぐいぐいと引っぱられるあまりの強さに、わたしの小さなからだはひょろひょろと持っていかれた。ちゃんと持ってろ。父はそう言うけれど、わたしはちゃんと持っていた。持っていても引っぱられる。みかねた父がわたしから糸の持ち手を取り上げた。わたしの手に残ったのは、風に乗った凧の強烈な引きの感触だけ。

空の風は地上の風とは違う。カイトを見ながら、背中から吹いてくる風を感じた。五月だなと思った。



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