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0603

『はぎつかい』を書き終えてから、ずっとぼうっとしている。アスランは帰ってきた。大騒ぎしたのに、全然別のバッグの内ポケットで、何食わぬ顔をしていた。いたやん、ここにいたんかい、と何弁かわからない言葉をかけても、しれっとしている。わたしがぼうっとしていたから、そこにいたのを見つけられなかっただけかもしれないけれど、なんとなくアスランは違う時空に出かけていたのではないかと思った。

そう思うのには理由があって、それはわたしが『はぎつかい』を書いたからだ。なんの関係があるのかというと、『はぎつかい』はやってきたお話だからだ。わたしのところへやってきてくれて、わたしはそれをかたちにしただけ。たぶん、そういうお話のもとが存在するところというのが、あるのだと思う。アスランは、そこに行ってきたような気がする。

そこはナルニアではない。ナルニアになる前の、ナルニアとして書かれる前のなにかがあった場所だ。そしてナルニアだけじゃなく、すべての物語の、書かれる前のそれが在る場所だ。わたしはそこへは実際には行けない。だからアスランが代わりに行ってきてくれた。お話をもたらしてくれた感謝を伝えに。

わたしはまだぼんやりしていて、きっとおかしなことを書いているのだろうなと思う。わたしとしては、おかしくもなんともない、ほんとうのことなのだけれど。ともあれ、アスランが帰ってきてくれてよかった。王の帰還、と浮かんだけれど、それはナルニアの話ではなかった。そういえばアスランは、石舞台の上で一度いのちを失って、そして復活していたのだった。


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