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栗の木の下で雨宿りした。天気雨だった。突然降り出した雨に、丘にいた人たちは蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。わたしだけが栗の木の下に残った。一つ所に何本か植わっていて、それぞれの枝が重なり合い、大きな一本の木のように見える栗たちの、葉っぱに落ちてくる雨音に耳をすませた。屋根の下でも、傘の下でも、車の中でもない、純粋な雨の音。そばでヒバリがずっと歌っていた。ふいに風が渡って、一瞬遅れてざわめく木の葉。混じりけのない自然の音は、耳に聞こえると同時に深い静寂を感じさせた。森の中にいるようだと思った。栗の新緑の生気に満ちた息吹。なにか大いなるものに守護されているかのような心地になる。

雨音が弱まったので、栗の木の下を出た。ありがとうと心の中で言うと、栗の木が喜んだような気がした。葉を一枚触らせてもらった。もうずいぶんとしっかりとしていて、でも瑞々しさがはじけるような若い葉だった。

まだ雨が降っていた。栗の木を振りかえったら、こんもりとしたみどりをバックに、落ちてくる雨の筋が見えた。真正面の太陽に照らされて、銀色に見えた。細い糸筋のような、ひかる銀の雨。止むまでの間、見とれていた。

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