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雪は降ってくるときは灰色だ、ということ思い出した。それに気づいたのは子どもの頃で、暗灰色の紙くずが落ちてくるみたいだと思ったのだった。灰そのものだと思った気もする。よく見ると形もさまざまの、軽くて弱い風にも舞う、触ると崩れてしまうほどもろい、何かが燃えたあとの灰。それが地面に降り積もると、なぜか真っ白になるのだ。昔もいまもそれは変わらない。この不思議はどうしようもない。

窓を開けて降る雪を見上げていたら、羽根のような雪片が目についた。それと気づくと、何枚も何枚も羽根が舞い降りてくる。それは、遠い遠い空のどこかで天使たちが大きな翼をはためかせたから。その翼から散った羽根がひらひらと降ってくるから。もしそうだとしたら、羽根である雪が空中にあるときに灰色なのは、地上のものでも天上のものでもないからなのかもしれない。地に舞い降りて初めて、この地上の色を持つのだ。天からもたらされたものが、地球のものとなるまでのつかの間に染まるグレー。

灰のようだと思った幼いわたしの感覚も、雪が羽根なら説明がつく。宇宙から大気圏に入るときに、気体がぎゅっと収縮して高温が発生するように、きっと、空のものから地上のものとなるどこかの段階で、同じようなことが起こるのだ。天使の羽根から雪になる瞬間、それは天界のものとしては燃え尽きて灰になる、というような。そして地面に降りて息を吹きかえし白を手にする、というような。

科学的な答えがきっとあるのだろうけど、わたしの欲しいのはそれじゃない。わたしのなかでの納得に、できるだけ自分で辿り着きたいのだ。雪のことだけじゃなく。


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