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桜染め。黄色味が強く染まったその色は、それでも春のやわらかさと明るさと、生命を謳うような肯定感を抱いた、つよくてやさしい色だった。カメラではそのかわいさが写らなくて、「人間が見ているようには写らないんだよね」と、一緒に染めたお教室の先輩と話した。

カメラは、人間の眼がとらえる世界をそのままに写せない。わたしの言葉は、わたしの見ている世界を、それを感じているわたしの内側を、正確にかたどれない。去年と違う桜の染め色を、三年前に染まった桜の色を、どう言葉にすればいいのかわからない。それらを見て、まるで恋でもしたように胸がきゅうっと切なくなるほどその色に焦がれる気持ちも、言葉じゃなくて、身体から出してそのままを見てもらえたらいいのに。

染色は立ち仕事で、久々によく動いた。今夜はぐっすり眠るだろう。次も元気で会いましょう、と言ったら、お教室には笑い声がはじけた。今日はここまで。さようなら。また明日。明日じゃなくてもまたいつか。

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