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蛍光灯がきれたので、電器店に買いに行った。青木淳悟の小説で、もうだめだ、と夫がつぶやくのを、蛍光灯がきれたことと重ね合わせて、だめじゃない!と妻が叫ぶ。だめじゃない!とわたしも声に出して言ったのを思い出す。というより、音読していたのだった。口にするのがおもしろくて何度も言った、だめじゃない!だめじゃない!だめじゃない!

何年ぶりになるかわからない、柴崎友香さんを読んだ。なんだか知らない人が書いているようだった。柴崎さんは柴崎さんのままなのだろうけれど、そこに書いてあることは以前わたしが読んでいた頃のものとは違っているように感じた。ゆく河の流れは絶えずしてしかももとの水にあらず、と思った。それでも、読んでいると大阪弁をしゃべりたくなるのは変わらなかった。日常で交わされる、大阪弁のやさしいイントネーションとやわらかな響き。読んでいると聞こえてくるのは、以前好きだったバンドのメンバーたちの声だったけれど、いまはもう聞こえなかった。彼らの歌も声も遠くなってしまった。柴崎さんが柴崎さんのこの何年かを生きてきたように、わたしもわたしの何年かを生きてきて、あの頃とは違っているのだった。みんな変わってゆく。でもそれはきっと、だめなことじゃない。だめじゃないなら軽やかに変わってゆきたい。新しい扉を次々開けていくような。今朝まどろみの中で聞いたのは、そのことだと思った。

「目が覚めたら、いつもゲートウェイなんだよ」


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