my s(word)
大学を卒業するときに、後輩たちから贈られたことばがある。サークルの卒団式で、一人一人に賞状が手渡された。
「表彰状。卒業するあなたに以下のことばを贈ります。‘’快刀乱麻‘’」
読み上げられている時にわたしが思い浮かべたのは、某アニメだった。音だけで「かいとうらんま」と聞いたら、知っている人は誰もが想像するだろう。でも何を意味するのか、よくわからない。わたしより前には、「完全無欠」と「七転び八起き」を贈られた二人がいて、それぞれ完全無欠な彼女だったし、七転び八起きな彼女だった。わたしは「かいとうらんま」?わからない。賞状を渡されて、快刀乱麻の漢字を見ても困惑は続いた。その時初めて目にした熟語だったのだ。だから何のことを言われてるのかさっぱりわからず、わたしはどうにも不安だった。自分がどう評されているのか、全然わからないなんて。
皆の賞状授与のあとで、同期や院生の先輩たちに意味を訊いてまわった。何人目かでやっともらえた答え、「スパっと切れ味がいいこと」。なるほど、これは一刀両断ということだなと得心した。当時わたしはとても辛辣だった。人に対しても、サークルの運営に対しても。おかしいと思ったことは口に出していて、そういうわたしの物言いは、一刀両断と言われるにふさわしいと思った。ただ、それはどこか裁きのニュアンスを感じるから、やさしい後輩たちは快刀乱麻に言い換えたのだろうなと思った。
今回改めて快刀乱麻の意味を調べた。
快刀乱麻を断つ
(切れ味のよい刀剣で、乱れもつれた麻の糸を切る意)紛糾している物事を、てきぱきと手際よく処理すること。単に、「快刀乱麻」とも。
図書館で何冊も辞書をあたっているうちに、ふと、後輩たちは四字熟語でまとめようとしたけれど、ほんとうは快刀の二文字でよかったのじゃないか、という気がした。
快刀
気持ちよく切れる刀。切れ味のすばらしい刀。
それはすでに、当日に聞いていた。「スパっと切れ味のいいこと」。なんだ、あれをそのまま受け取ってよかったんだ。
一刀両断と言いたかったのだろう、裁いているようなところも含めて。そう思っていたのは、わたしが当時のわたしをよく思っていなかったからだ。人をすぐ裁く、高慢なやつ。ずっと自分をそのように思って、嫌っていた。でも、率直な物言いに人は時に救われる。生意気な大学生だったわたしの辛辣な発言に、救われていた人もいるのかもしれない。そんなふうに思えるようになったのは、快刀乱麻のことを思い出した時にすでに準備されていたことなのかもしれない。
過去が、過去への思いが変わるのは、いまの自分が変わるからだ。率直に話す友人を見ていて、大学以来封印してきた辛辣さを、自分の内に在るものとしてわたしは認めようと思った。彼女の率直さは胸がすくように気持ちがいい。思ったことを口にすることは、納得しかねる気持ちや、思い惑う気持ちの靄を切り払うのだ。快刀ってきっとそんなかんじ。わたしはまた快刀をふるっていこうかなと思う。それがわたしだったと思い出したから。
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