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河津桜が見頃だった。冷え込んだ曇りの日だけれど、桜を見に来た人たちでにぎわっていた。「鳥たちもうれしくってぴーよぴーよ鳴いてるね」見知らぬ女性が友人に言っているのが聞こえた。公園の丘の斜面に何十本も植えられた河津桜に、人も鳥も集まっていた。鳥たちがいっせいにわたしの立っているすぐそばの桜の木に降り立って、枝から枝へ飛び移っては花をつつく。「ヒヨドリかねえ」と誰かが言う。「ヒヨドリですよね?」「そう、ヒヨドリだよ」「メジロもいるって聞いたけど」「メジロは、こんなにヒヨドリがいっぱいいたら寄ってこないよ」「あー、メジロはちっちゃいからねぇ」丘の上で交わされる会話を耳に入れながら、ああ、この鳥はヒヨドリというのかと思っていた。ぴいーっと長く鳴く、鳴き声に覚えがある。意外に大きい。ぱたぱたとせわしなくよく動く。枝に逆さにつかまって花をつついているのを見てびっくりした。丘の上の会話から、蜜を食べているらしいとわかった。毎年のように河津桜を見に来ているけれど、これほどたくさんのヒヨドリを見たのは初めてだ。

メジロも見ていた。桜に向かう前に梅を見ていたのだ。その梅の木に、これもまたたくさんの鳥がいっせいに飛んできたのだった。小さめの鳥で、スズメのようだと思った。スマフォの画面をズームすると、目の周りが白いのがわかった。メジロだ。よくよく見ると身体もみどりがかっていた。メジロたちの動きはちょこちょことかわいらしかった。梅とメジロはとてもお似合いだと思った。

梅の木から丘の河津桜に向かう途中で、トンビの鳴き声を聞いた。見上げると二羽、飛んでいた。翼をまったく動かさずに広げたまま、円を描いて飛んでいた。どうやって風をつかまえているのだろう。どうやって風に乗っているのだろう。地上では風は感じられない。トンビにしか感じられない風の動き、流れがあるのだろうと思った。羽ばたくことをせずに、くるくると旋回するのに十分な風の動きがあるのだ。それは風とは呼ばないのかもしれない。ただ空気の動き、流れがあるだけかもしれない。その微妙な空気のあやをトンビはきっと名づけない。ぴぃーよろろと鳴いて、一羽が方向を変えた、やっぱり羽を動かさずにすうっとすべるように飛んでいった。

家に戻ると、コートのフードにおみやげが入っていた。梅の花一輪。

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