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あじさいが咲いていた。咲き続けていたというべきか、咲きっぱなしだったのか、季節はずれに咲いたのか、その公園には久しぶりに訪れたのでわからない。色あせた白っぽい水色、枯れ草色が混じったピンク、水気のないうす青紫、本来の時期の花と違った風合いの、乾燥した花色、乾いた美しさ、胸がきゅぅっとなる、美しいものを目にするときゅぅっとなる、甘やかで切なくて愛おしい、いろいろが入っているきゅぅ。

風に舞って木の葉がくるくると飛んでいた。竹とんぼが回るようにきれいに回転しながら飛ぶ、陽の光でちかちかきらきらと輝いている、それを首を曲げて見上げている、見上げた木の名前もその高さがどれほどなのかもわたしは知らない、散って舞うのは黄色く染まった葉だけだ、だからきらきら光って見える、風に吹かれるたくさんの葉音、木と一緒にわたしも風に吹かれる、わたしには音を鳴らす葉っぱはない、でもびょうびょうと通り過ぎていく風の音が聞こえる、

強い向かい風の中でジャンプして一瞬のあいだ風に乗る、という遊びを子どもたちはしたそうだ、わたしはこの土地の育ちではないからやったことはない、大人になったこの身体でも風に乗れるだろうか、ここではカラスも風に乗って遊ぶ、空中で小さく跳ねるように風と戯れる、風と遊ぶ鳥はトンビしか知らなかった、上空の風の流れをつかんで優雅に旋回する、そういえばこの前トンビの鳴くのを久々に聞いた、ぴよろろろーと聞こえた、その方向を見てもいない、全然違うところにトンビが飛んでいた、トンビの声は不思議だ、近くに聞こえても見るとずっとずっと高いところにいたりする、でもそれは実家のある町で見た記憶だ、この土地ではトンビも低く飛んでいる、電線に引っかからない程度の低さに、そうやって飛んでいるトンビを見たのは一昨日のこと、鳴くのを聞いたのはもっと前。



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