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歯科医院で受けた麻酔が消えない中、ずっと『読書実録』を書き写していた。左下側の奥歯のところにした麻酔は、左顎を麻痺させた。麻痺するということは、自分では力を入れられないということで、それは筋肉をゆるめることになっている、耳たぶのすぐ下の辺りがじんわりとしていたからそう思った。歯科医院では噛み合わせの悪さを指摘されていて、自分でもなんとなくそうは思っていたのだけれど、麻酔を受けてゆるんでみると、普段どんなに顎に力を入れているかが体を通してわかってくる。顎の力がゆるむと、頭までゆるむ、ぼんやりと眠くなる。でもこれは麻酔の作用なのだろうか、どちらにしても悪くないかんじだった、ぽーっとして安らいでいる。

いつもより楽に書き写しができた。下を向いたときにくらくらするかんじがなく、顔を上げてもくらくらしなくて、なんだか頭はぽやーっとしているし、そこには不安感は一切なくて、一度読み通した『読書実録』を読み返して書き写すことだけがただあった。すごく力の抜けた時間だった。やっぱり麻酔の成分のせいだろうか、なんでもいい、わたしはとても心地よかった。このぼんやりはだるさとは違って、かえって行動をしやすくされている、筆写の後で久しぶりに洗車をした。ぴかぴかになったわたしの車は、いつ見てもかわいい、胸がときめくわたしの愛車。

洗車の時には左側の唇に感覚は戻ってきたけれど、しびれるかんじがしばらく消えなかった。麻酔を受けたらこわくなって虫歯の治療は次回にしてもらった、書き写しをし始めたらそのこわさは遠のいた、同じ一日のことだったとは思えない、ぼんやりした頭だったからなおさらだ、唇と顎に残るしびれだけが歯科医院に行ったことを示していた。

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