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0907 周波数を変える

FMトランスミッターを使っていると、他の車で聞かれている曲やラジオを拾うことがある。すれ違う一瞬とかなら許容できるし、その瞬間相手にもわたしの聞いている曲が聞こえているのだなと思って、申し訳ないような、でもその邂逅を楽しむような気持ちになることもある。でも、拾う時間が長く続くとちょっと大変だ。拾わないようにカーラジオを消す。もういいかなと思って点けてみても、依然として他の誰かのプレイリストが流れている。またラジオを消す。その繰り返しで、わたしは自分の聞きたい曲が聞けないままでいる。

信号待ちの時に、カーラジオの周波数を変えてみた。FMトランスミッターの周波数も同じ数字に変える。トランスミッターに接続しているウォークマンのプレイボタンを押す。くるりが流れた。わたしの今日のプレイリスト。さっきまでの周波数よりも、なんだか音がクリアに聞こえるのは、気のせいだろうか。それまでと全然違う体感があった。全然違う周波数の世界に来たと思った。文字通りに。

こんなに簡単でよかったのだった。それぞれのボタンを押すだけ。ほんの少しの行動で、瞬時に快適な視聴環境が整った。なんて簡単なことだったんだ。

自分が心地よいと思う周波数を選べばいいと、いくら言葉で説明されてもわからなかった。自分が実際にやってみて初めてわかるものだ。聞きたいこと、見たいこと、望むことに周波数を合わせるって、おそらくこういうこと。思えばトランスミッターを買ってから、使う周波数を一度も変えたことがなかった。五年近く固着していたものを変えたのだから、新しい周波数の世界がドラスティックに感じられるのも当然のことだった。設定範囲の一番低い周波数から、一番高い周波数へ。大きなジャンプをした気分。


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