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銀木犀が好きだ。沈丁花に似た香りがする。ヒイラギのようなギザギザの葉っぱは少しかたくて、その葉の下側に白い小さな花が、金木犀の花と同じように細々とまとまって咲いている。近くで嗅ごうと身をかがめると、ギザギザが刺さりそうになる。目の前に立っていても、その時の空気の具合によって、香ったり香らなかったりする、一瞬香るときに、あ、と思って思いきり吸い込む。

保坂さんの『読書実録』を書き写していた。全部ではなくて、抜き書きだけれど、写していたら頭が静まった。しん、とした。読みながら写すのではなく、ある程度読んでから、ページを戻って写している。だから二度読んでいることになる。一度目に読んだときに、声を出して笑ってしまった、今日は家で読んでいたからどんなに笑っても平気だ、書き写すときに同じ箇所をまた読んだら笑いは出てこなかった。書き写すときにはただ静寂がある。しん、として自分の深みへと降りていくようなかんじ。自分を探るために潜っていくのではない、ただ自動的に降りていく。

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