片付けが好きなジミー(#080)
インド人男子・ジミーが水彩の個人レッスンを今日終えて、あさって、ボストンの大学へ戻る。19歳。彼が13歳の時に水彩の個人レッスンは始まった。私が彼のお宅へうかがい、ダイニングテーブルで1時間のレッスンをする。母親は私と同い年でとても仲良くなった。
コロナ禍に入る直前に、ジミーの父親の仕事の都合でインドのニューデリーに家族が引っ越すことになった。その後はニューデリーとシドニー間でZOOMを通して毎週1時間のレッスンを続けた。
コロナ禍がおさまった頃、父親の仕事の都合でまたジミーと家族がシドニーに戻ってきた。ダイニングテーブルでの対面レッスンが再開した。気がつくと13歳のジミーが大学に進学する年になり、彼の渡米を機にレッスンは終わった。これでもうさようならだと思っていたら。2ヶ月前にジミーの母親から電話が来て「夏休みのあいだジミーはシドニーにいるので、レッスンを再開したい」という。久しぶりにジミーと母親に会えて嬉しかった。1回1時間・合計10回のレッスンをして、彼は素敵な風景画を2枚仕上げた。
ジミーはとても丁寧に線を引き、色を塗る。穏やかな性格で、勉強もできて、なんでもそつなくこなす。私にはない要素を全部持っている。彼の絵をよくするために、彼の性質と反するようなアドバイスを私はすることになる。「この部分はもっと汚したほうがフォーカルポイントが引き立つよ」「もっと線をぼやけさせた方が効果が出るよ」「ここは色を抜いて目立たなくした方がいいね」など、彼がきっちり描いた絵を崩すアドバイスをするのだ。頭のいい子なので、ポイントをすぐ理解して、汚したり、ぼやけさせたり、目立たなくさせたりする。そして絵が良くなる。
線や色塗りが雑すぎる生徒も一方にいる。ジェーンだ。10歳。でも彼女の描く絵には魅力がある。このタイプは教えるのが難しい。彼女の持っている良いものをつぶすことなく、表現の幅を広げるためのスキル「きちんと線をひく・丁寧にシェイディングする」を教えないといけない。そのチャレンジとジェーンについてはまた別の機会に話そう。
昔、トイレットペーパーのコマーシャルで面白いのがあった。シドニーのコマーシャル。9歳くらいの男の子がトイレに座ってトイレットペーパーを引き出して手の上に重ねる。そして言う。「僕とお母さんはフォルダーだ。でも妹とお父さんはスクランチャーだ」つまり、僕とお母さんはきちんとトイレットペーパーを畳んでから使う。でも妹とお父さんはトイレットペーパーをくしゃくしゃにして使うと言うのだ。私はこのコマーシャルが大好きだった。
ジミーは言うまでもなくフォルダーだ。そして彼の家族は全てフォルダーらしいことがわかった。みんな綺麗好き。ジミーに聞いた。「何をしている時が楽しいの?絵を描くこと以外に何か趣味はあるの?」「うーん・・・自分の部屋を片付けることかな」私はびっくりした。詳しく聞くと、部屋の模様替え・引き出しの中の整理とかそういうのが楽しいと言うのだ。こんな子供が男子がいるんだ。本当に。母親に確認すると「うちはみんなキレイ好きなんだけれど、ジミーは全く違うレベルのキレイ好きなの、こんなに小さい時から」という。この遺伝子はどっから来ているのだろう。うちの家系にはない遺伝子。
ジミーの母親が絵を習いたいと言った。彼女がうちの教室に通い始める。彼女はどんな絵を描くのだろう。ジミーの遺伝子がどっから来たのかわかる日が来る。
あなたはフォルダー?それともスクランチャー?
あなたの想像力がわたしの武器。今日も読んでくれてありがとう。
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