#夏祭りとぼく
夏祭り、夏祭り………。
幼い頃の深い記憶をたどる。おぼつかない足どりで、たどる。頭の中に夏祭りの出店や提灯、盆踊りの櫓や鮮やかな打ち上げ花火が並ぶ。
夏祭りもいろいろある。
地区の公民館でこじんまりと開催される夏祭りや、打ち上げ花火をどどんと上げて華やかに開かれる夏祭り、ずっとずっと昔から受け継がれているその地域の神事などなど。
いろいろ思い出してみたが、夏祭りといえば、今強く思い浮かぶのは、これかなと思い、キーボードをカタカタしてみることにした。
時は、熊本地震が起こる数年前の話である。
「おばあちゃんが亡くなったよ」
そう、今朝、急変してね。朝方、呼ばれて行ったんやけど、行ったら落ち着いてきたけん、大丈夫やろうって、みんな一度帰ってから、また来ようって病院出て少ししたら、病院からまた連絡があってね、亡くなりましたって。うん、もう少ししたら、斎場に着くけんね、あんたは仕事終わってから来たらいいけん。あ、今日は、お父さんと一緒に斎場に泊まってくれる?よかね?ありがとう。そしたら、気をつけておいで。慌てんでいいけんね。
母からの電話はいつも一方的なことが多いが、この日も例に漏れず、私が「うん」とか「分かった」とかたまにいうぐらいで、電話は切れた。
とりあえず、朝その一報を受けて、会社へ行き、事情を話して、しばらく忌引で休ませてもらうことにした。それから、数日分の仕事をドタバタと終わらせて、定時とともに会社を出た。
そして、またドタバタしながら、帰省の準備をして、車を熊本の斎場へと走らせた。
「おい、今どこにおるとか?」
高速道路を走っている最中に電話が何度も鳴っていた。え〜、何やろうか〜と思いながら、最寄りのパーキングエリアに入り、電話をかけ直す。
おい、今どこにおるとか?まだ、そこか?あのな、いま、お母さんたちは家に帰ったけんな。あとどれくらいで着くとや?30分ぐらいか?気をつけて、早よ来いよ。
それは、斎場におばあさんと一緒に残った父からの電話だった。そう、亡くなったのは、父の母である。老衰で、99歳の大往生だった。大きな病気は何1つなく、最期まで新聞やテレビを白内障でほぼ見えないながらも楽しんでいたそうだ。お見舞いに行けば、痴呆もなく、最近の時事ネタから、昔の思い出話に花を咲かせて、私たちといろんなことを話した。そして、帰る時は必ず介護士さんを呼んで、車椅子に移してもらい、玄関まで見送りに来てくれていた。
「………ん?あれ??」
おばあさんの事を思い出しながら、家族葬の小さな斎場に着いて、さあ中へと入ろうとしたら、鍵が閉まっている。え?まさか締め出された?いや、人に慌てんでよかとか、早よ来いとか、いろいろ言っといて、それはなかろうもん!とツッコミながら、正面入り口をドンドン叩きながら、父の携帯に電話をかけるがつながらず。母に電話したら、まさかの一言が返ってきた。
「あー、呑みに行ったかもしれんばい」
なにぃ?なんですと!?おばあさんを一人にして、呑みに行くとは…ったく。
母の話だと、私が到着する前に待ちきれなくて、近くの居酒屋に呑みに行ったかもというのだ。信じられん…やることが破天荒過ぎます、お父さま…。
仕方がないので、車の中で待機してると、数十分後に父が帰ってきた。それもかなりの千鳥足で、酒を浴びるように呑んだのが一目瞭然である。
お酒の匂いをぷんぷんさせている父と斎場の中へ入る。奥の部屋におばあさんが安置されていた。その顔はとても穏やかだった。その顔を見た瞬間に、今までのツッコミはどこへやらで、一気におばあさんとの思い出が蘇っていた。
が、そんな感傷に浸る間もなく、父はおばあさんの横に布団を敷き、私にはふすま一枚で仕切られた隣の部屋で寝ろと指示を出す。そして、線香の火は絶やすなよと念を押される。
とりあえず、私も言われるがまま部屋に荷物を降ろした。そして、押し入れを開けて布団を敷こうと布団を引っ張り出したら、ふすまの向こうから気持ちよさそうないびきが聞こえてきた。うん、寝るの早くない?っていうか、これは、私が一晩中、寝ずの番をしろということですな。うん、もうお酒を呑んでるという時点で覚悟してはいたけどさ…。
撮った。
ちょうど斎場に泊まったのが7月14日から15日にかけてだった。私は眠気を吹き飛ばすべく、新聞を読み、テレビの深夜番組を見たり、時々おばあさんと父の様子を見に行ったりしていた。
もう、父も歳なので、「ぼく」というには程遠かったが、それでも、久しぶりにこうやって、いろんな想いを抱えながら親子二人で寝てるんだなあと思うと、ちょっとだけ微笑ましくも思えた。
そんなことを思いながら、私は起きてがんばっていたのだが、やはり人間、仕事の疲れには勝てない。まぶたが重くなる。ヤバい。どうにかして朝まで起きていなければ…。
そう思った瞬間に、テレビから博多祇園山笠のクライマックスである追い山慣らしの中継が始まったのだ。一気に目が覚めた。時刻は4時59分。一番山が櫛田入りして、祝いめでたを唱和する。そして、山が動く。テレビのニュースで何度か見たことはあったが、こうして、リアルでしっかりと見るのは初めてだ。
そうしているうちに夜が明けて、朝ごはんを近くの弁当屋さんで交代で食べに行っていたら、やがて母たちも斎場へやってきた。
博多祇園山笠。直接見たことはないが、山笠というとそのことを思い出す。
今年は3年ぶりの開催だ。舁き山を見に行って、一枚に収めたかったのだが、諸事情により、それは叶わず。
代わりに、昨年櫛田神社へ行ったときに、櫛田神社内の櫛田入りする場所を、ぱちり。
写真を取っていたら、見知らぬ観光客に、「テレビでやってる櫛田入りって、どこですか?」と聞かれて、ここですよと言うと、「え?ここ?」という顔をされたが、ここなのだ。
他の夏祭りの話はまたの機会に…ね。
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