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深夜の電話

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深夜に電話が鳴る。それをうける小学生の少年。 ───────(設定は1970年代前半、黒電話しかない時代です)
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2014年7月の記事一覧

「深夜の電話」第32話

1匹ずつ太い鉄格子の檻に入れられた猿は、いつも神経質で、極めつきに凶暴だった。格子に獅噛ついて暴れ、牙を剥いて吠え、格子の間から精一杯に腕を伸ばして掴みかかろうとし、少年に向かって糞を投げつけた。少年はそれを見るのも恐ろしく、檻の向かい側のコンクリートの壁に張り付くのだった。……続く

「深夜の電話」第33話

その獰猛な猿の一匹が、山の方に逃げてしまったという連絡が病院から入って、今夜父は出かけて行った。「……逃げたので、先生に連絡を!その、あの、どうしても……」予想通りの事を署員が電話の向こうで喚いているらしい。少年に伝言を命じさえすれば、自分の責任は無くなると思っているのだろう。……続く

「深夜の電話」第34話

「はぁ」と少年は生返事を繰り返していた。というのも、今夜はもう伝言の必要は無かったからだ。父達は既に逃げた猿を捕獲していた。父の先輩の医師が、追いつめた猿を、格闘の末取り押さえたらしい。その際、抵抗する猿は、手の甲から掌まで牙が突き抜けるほど激しく噛みついたということだった。……続く

「深夜の電話」第35話

電話口からの警察署員の声が次第にわんわんと強くなってきた。伝言リレーの「責任」バトンを、何が何でも押し付けようとジタバタ藻掻いているのだ。耳から受話器を離して、少年はそれをじっと見つめた。受話器から漏れ聞こえる怒声が、どす黒い汚物のようだった。……続く

「深夜の電話」第36回

垂れ流れてくるものが、檻の格子の合間から伸びる腕や、投げつけられる糞尿かのように脳裏に映る。そしてその時、胸にわだかっていたものが、突然ふっと解けた。 ……続く

「深夜の電話」最終話

「医者になるのは止めよう。うん、ならない。絶対に」尾上少年は、黒い受話器を両手で水平に持って、ゆっくり、しかし決然と、それを降ろした。────“チン”     (完)

あとがき

「深夜の電話」は、2010年の5月10日~6月29日の間、平日の最終ツイートとして1話ずつ投稿したのが初出です。(トゥギャッター上でのまとめ)

今回それを再構成してnoteに掲載しました。