おやすみ世界

「付き合うことになったんだよね」
「えっ」

友達のその報告に、私の口からは おめでとう とか 良かったね って言葉は出てこなかった。あーあ、やっぱり最低なヤツだ。

何が最低なのかもわからない。ただ、頭がくらっとして、口角を上げるだけで精一杯だった。もしかしたら上がってなかったかも。

ちょぴり照れた仕草を見せつつも、友達は言葉を紡いだ。馴れ初め、告白のセリフ…いやだ、聞きたくない。

でも何か言わなきゃ。返さなきゃ。
冷たいヤツって思われたらどうしよう。

少し前まで、2人で合コンに行っては「良い人ないないねー」って言い合ってたじゃん。お互いアラサーに差し掛かろうとしてるのに、何年も彼氏いなくて。やばいよねって自嘲しつつ、心のどこかで、うちら2人でいれば大丈夫って考えてたでしょ。ねえ…。

大好きなショートケーキもロイヤルミルクティーも、とたんに味がしなくなった。お気に入りのカフェだったのに、トラウマの場所になりそう。


めんどくさい、もう。早めに切り上げて、帰ろう。

お店を出て早々に解散を告げ、足早に家に帰る。さっきの友達の言葉や、幸せそうな表情がこびりついて離れない。

周りは結婚や同棲の話ばかり。私はといえば3年前に彼氏と別れて以来、特に彩りのない生活を送っていた。

心の支えが無くなってしまったような感覚。
私は友達に何を期待していたんだろう?ずっと同じなんてあり得ないのにね。幸せそうな友達を見て、一瞬でも不快感を覚えてしまった私は、もう友達失格だ。

どっかで、この先も彼氏はできない、先を越されるはずないって見下してたんだろうなぁ。

寂しさ、屈辱、悔しさ、みじめ、嫉妬。
人間はなんでこんな嫌な感情をいくつも持てるようにできてるんだろう。

「まだ彼氏できないのー?」
マウント。めんどくさい。
同じ言葉をかけられても、こうも気分が変わるものか。もう辞めたい、何もかも。






おやすみ。

このまま起きなければいいのにって、どこか他人事のように思いながら、目を閉じた。

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