朝マック

子どもの頃、家族で食べる朝マックが最高のごちそうに思えた。


母は毎朝ごはんを用意してくれる人だった。父や子どもたちのお弁当のついでや、休日はスーパーで買ってきたパンが置いてあるだけの日もあり、特別手が込んでいるという訳ではなかったが、私は毎朝起きたら食べる物が用意されているのがどれだけありがたいことかを知っている。

そんなある日、父が朝マックに行こうと言い出した。あまり外に出たがらない父が、朝イチで車を走らせてマクドナルドを買いに行こうだなんて。
子どもながらに不思議で、でもその非日常な行為に無性にワクワクしたのを覚えている。後から聞いたら、どうやら仕事の関係で無料クーポンを大量ゲットしただけらしいのだが。

最寄りのマクドナルドには車で片道15分ほどかかった。家族全員で簡単に身なりを整え、車に乗り込む。ドライブスルーだからお留守番しててもいいよ、といわれたけど、誰一人家で待つ選択をする人はいなかった。「今日はごはんの準備しなくていいね♪」と喜んでいる母を見るのも嬉しかった。


帰りの車に充満する朝マックの香りに、とんでもない高揚を感じながら家に着いた。

お昼に食べるやつとはまた違う、バーガーとハッシュドポテト。朝からジャンキーな物を口にする背徳感、滅多にない父からの家族サービスの提案、いろんなものが相まってそれはそれは美味しく思えた。
200円〜300円(しかもクーポン使ってるので実質無料)でこんなに満たされるなんて、我ながらやっすい女だな。
そう何回もあった訳ではないけれど、時々訪れたその日のことは、なぜか今でも覚えている。


大人になって、好きな時に好きな物が食べられるようになった。仕事に追われ、自分の食べる物すらまともに用意できなかったある日。

「あ、朝マック行こ」

ふとあの頃を思い出して、ワクワク感とともにバーガーにかぶりつく。
うん、美味しい。

思い出付きのそのバーガーは、あの頃と変わらない味だった。


懐かしさにひどく興奮した私は、また次の日もマクドナルドに足を運んでいた。その次の日も。
そんな生活が3ヶ月くらい続いた。最後はもう惰性で食べていたと思う。美味しいからじゃなくて、ただ空腹を満たすためだけに食べていることにも本当は気づいていた。

急に味が変わったように思えてくる。
ああ、もうあの頃の“みんなで食べる朝マック”は手に入らないんだ。
切なくなって、私はマック通いをやめた。

また、あの頃の思い出付きの朝マック、食べたいな。

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