読書メモ たのしい写真ーよい子のための写真教室

自分で撮るのはスマホで旅行に行ったときくらいのものなのに、写真を観るのは妙に好きで、写真関係の本もときどき読みたくなります。

この本はタイトルこそ「写真教室」ですが、序文にもあるとおり、自分では撮らないひとたちも読んで面白い本になっています。

これから、あるいは今まさに写真と関わったり、写真を扱おうとしている人たち、そして自分では撮らないけれど写真は大好きという人たちと一緒に、「今日の写真」について考えていけたらと思います。

 第1章では写真の歴史が解説されます。写真の流れは大きく「決定的瞬間」⇒「ニューカラー」⇒「ポストモダン」であるということらしいです。

写真には分けて2つの撮り方があり、それが「決定的瞬間」と、「ニューカラー」である、そして両者の違いは「シャッタースピード」にある、と説明されます。

図2

シャッタースピードが速いと絞りが大きくなり、ピントは浅くなり、画面の1点にしかピントを合わせることができなくなる。だから、「決定的瞬間」を捉えるのに向いている。

逆にシャッタースピードが遅いと手前から奥までピントが合わせられる、つまり画面の隅々までを「等価値」に表現できる=決定的瞬間など存在しない、というスタンスに向いている、らしいです。

図1

すなわち、1回の撮影で物あるいは世界と向き合う時間が違ってくる、写す姿勢も変わってくる、ということでした。これを知っているだけでも、かなり写真の鑑賞が楽しくなりそうと思いました。

「ポストモダン」の時代は、いろいろありすぎて、よくわからない、ということはわかりました。「今日の写真」の特徴として、著者は以下4つの視点を挙げています。

1)ストレートからセットアップへ
2)大きな物語から小さな物語へ
3)美術への接近あるいは美術からの接近
4)あらゆる境界線の曖昧さ

このあたりはもう少し深く知識を仕入れたほうが、鑑賞する側としては楽しめるのかもしれませんが、大きな流れはなんとなくつかめた感じです。


第2章のワークショップ編も面白かったです。別に撮影しなくても読んでいるだけで楽しめます。その3まであって、どれも興味深い内容ですが、特に面白かったのは、その1のテーマでした。

Q: あなたの好きな写真集の中から1枚の写真を選んで、それがどにょうに成立しているかを言葉で説明し、次いでその1枚と同じ構造の写真を撮影してください。

本の中では実際にこのトレーニングに参加した人の作品が出てきます。シャッターボタンを押せば撮影はできるのに、同じ場所で撮ったとしても全然違う作品になるというのが、よくわかります。

このトレーニングは諮らずも、写真の本質である「一回性」を強く実感させてくれるでしょう。あの雨の夜に撮影した写真は、あの時、あの場所でしか撮ることができなかったものなのです。それが写真にとっての真実=リアルなのです。


最後に、第4章 補習篇として、収められている対談の、最後の内容が印象的であったので、紹介したいと思います。写真における時間について、という内容です。

写した人間も大切ですが、写された人間がそこにいた、ということも大切ですね。・・・
写真で最も恐ろしいのは、写された人がその時間にそこにいたという事実だと思うんです。過去を遡るということではなくて、過去がいきなりそこにある。同時にその過去はもうない。・・・
写真だったら、1週間前に撮った時間は、そこに定着されている。

著書の中では、「最も恐ろしいこと」と表現されていますが、多くの人にとって写真(個人的には特にポートレートにそれを感じます)が魅力的な理由は、この点にあるのではないでしょうか。今しかないこの瞬間をとらえて、残しておく手段であることは、絵画とは大きく違う点であると思います。

なんとなく、この文章を読んで、石田真澄さんの写真集「everything will flow」に収められている解説を思い出しました。

石田は「ぜんぶ消えてしまうから、残しておきたいと思って」写真を撮るのだと事あるごとにいう。・・・
そこに写る人々にも同じように流れる、ありふれた、しかし唯一無二の人生の時間。それらのすべてがひととき閃光のようにきらめいては静かに消えてゆくことを知っているからこそ、石田は切実にシャッターを切る。


だらだらと感想を書いてきましたが、まとめると写真を撮る人にも、観るだけの人にとっても、写真の楽しさを拡げる良い本だと思います。

著者自身も書いていますが、すでにがっつり写真に関わっている人向けというよりも、写真に関わり始めた、またはこれから関わっていきたいというライトな層におすすめです。

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