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AIシンガーが組んだバンド ~音楽とテクノロジーについて想いをはせる

前回の記事が、noteの公式マガジン「民族音楽」にピックアップされたとのことで、ありがとうございます。
https://note.com/note_entertain/m/m614c9ee43488/hashtag/2505

引き続き民族楽器の世界について、、、と思ったのですが、今回は180度方向性を変えて、未来の話に想いを馳せてみたいと思います。

「AIシンガーがバンドを組んだよ」

そんなバズワードっぽい曲を作ったので、これを肴に音楽とテクノロジーについて想いを馳せてみたいと思います。

前半は、音楽とAI/テクノロジーの進歩について一般論と個人的な考え(1、2章)
後半は、この作品に込めたテーマについて(3,4、5章)

今回も、6000文字越えの長文なので、興味あるところ、流し読みしてもらって、何かを感じてもらえればうれしいです。

0.自己紹介

音楽を聴いたり、演奏したり、創ったりしてます。

学生の頃は、専門外ですが、第3次AIブームの先駆けとなるニューラルネットワークの出来損ないのモデルをつくったこともあります。「機械学習をさせて、マイナス1をマイナス1と認識させる」、、、というアレなもの。

今の仕事は、AI関連ではないですし、まったく生きてません。

1.AIってなに?(一般論)

まずは、一般論としてのAIの定義を超ざっくり整理してみました。(参考文献:ディープラーニングG検定公式テキスト 2018年)
大きく3回ブームがあったと言われてます。

第1次(1940~1970年代):一定のルールを使って、パズルのようなものを解く(迷路/探査木とか)
第2次(1970~2000年代):人間の知識をあらかじめ大量に入れておいて、問題解決の助けにする(エキスパートシステムとか)
第3次(2000年代~):人間の脳の仕組みをまねて、素材を読み込ませたら学習して生み出す(ディープラーニングとか)

 正直、第2次までは、仕込みとして、事前に知識ある人のデータ入力やアルゴリズムの入力が必要でなので、人類の知識の範囲を超えらないのが欠点。結局、期待はずれでブーム鎮火しました。
ただ、3次のディープラーニングでは大量の素材を食わせてしまえば学習して、自らで新しく生成できる点が新しく、コンピュータの性能向上で実現できることが増えて、ブームが盛り上がってるようです。

ただ、絵や音楽や文章を生成する生成AIは、クリエイターからすると自分の作品は学習データとして取り込まれて似たようなものを作られてしまうので、このあたり「AI憎し」となる要因です。

 人間の学習能力の進化に比べ、コンピューターの技術進歩の方が速いので、より多くの学習を繰り返すことができるようになり、人類の知能レベルを超える時期が来て、予想外の変化が起こるのでは?と言われていて、それがシンギュラリティとかいわれてます。

 ここで何が起こるのかは未知数で、科学者の間でも意見は2つに分かれているようです。

意見A)人類は自分たちの英知で守れる。
意見B)いや、もう無理でしょ。間違いなく脅威になる。

 晩年のホーキンス博士が意見Bだったのは有名ですが、意見Aの著名な科学者もいるので、どちらが正解かは誰もわかりません。

 産業革命も公害問題など課題があったし、原子力も平和利用の過程までに、広島~長崎~各地の実験(ビキニ島、セミパラチンスク、、、etc)での被害を経てきていることをかんがえると、AIでもそれに近い何らかの犠牲的なことが起こってから、修正されるということも、十分考えられます。

 どちらにせよ、未来は誰にも予想できないので、必要以上に悲観したり楽観したり、陰謀論やAI投資詐欺などに踊らされたりせずに、冷静な対応をするしかないかと思います。

2.音楽制作はAIにとってかわられるのか?

 こういうことをX(旧Twitter)でつぶやこうものなら、賛成派、反対派が、それぞれの持論をゴリ押すような展開が繰り広げられて目も当てらないような炎上状態になります。

僕個人は、賛成派でも反対派でもないのですが、芸術の世界でもAIが技術の一つとして取り入れられるのは間違いないだろうと思います。

 音楽の歴史は技術と共に変化しているので、それを否定すると、「音楽は生音を聴け」というところまでさかのぼってしまうし、どこで線を引くかは、誰にも判断できないと思うからです。

  • 生身の時代  :人間が生身で唄ったりリズムをとっていた時代

  • 楽器の時代 :楽器ができて声や体以外でも表現するようになってきた時代

  • 楽譜の時代 :口伝ではなく、伝承するための手法が確立した時代

  • 電気の時代 :アンプなどで増幅して、大人数でなくても大音量が出るようになった時代

  • 磁気の時代 :レコーディングして、再生できるようになり、どこでも聴けるようになった時代

  • デジタルの時代:デジタルデータとして処理できるようになった時代

演奏や創作や視聴などの観点が入り混じっていて、かなり荒っぽい時代分けではありますが、今こうして、自分たちが自由にスマホなどから音楽を聴けるのは、これまでの技術の進歩の結果なので、技術を否定すると、じゃあどこまでならOKなの?という話になるのですか、その線引きは誰にもできません。

で、2024年時点でのAIは音楽に対して何ができるの?というのを整理してみました(これも生成AIではなく、広義のAIです)

事例1)完成形の曲にしてくれる
  いわゆる生成AIですね。作詞/作曲/編曲までしてくれて、それっぽい曲にしてくれるサービスが登場しました。絵と一緒でどことなく変だったり、突っ込みどころはあるのですが、完成度は、今後爆上がりしていくと予想されます。
 人がオリジナル作品を作るにはかなりの手間がかかるので、これを大量な素材のひとつとして食われていると思うと憤りを感じるのは、僕も作り手の立場から、すごくわかります。

事例2)作曲支援をしてくれる
  次のコード進行のパターンのヒントをくれたりします。「AIがコード進行を考えてくれる」という触れ込みのソフトを試しに使ってみたのですが、よくあるコード進行パターンやメロディーラインをランダムで提示してくれるというだけのものでした。事前に大量のパターンを登録しておいて、それを引き出すだけという点で、第2次AIブームのエキスパートシステムに近いですね。アイデアのヒントが欲しい人にはいいかもしれません。

事例3)歌詞を考えてくれる
 ChatGPTなど「○○な歌詞を考えてみて」と入力すると、適当な歌詞を並べてくれます。
 なんかそれっぽい雰囲気のものを並べたものなので、良いかどうかは微妙です。アイデアのヒントにはなるかもなあという感じです。ただ、学習させると、今後、質が上がってきて、作詞家には驚異になると思います。

事例4)唄ってくれる
 AIとは違う技術ですが、2008年頃に出たボーカロイドは、音階と言葉を入れれば唄ってくれるようになりましたが、拙い棒読み感だったり、独特の味が出るので、人間声の歌とは別のジャンルとして、独自の人気を得ました。
 ただ、後発の人工音声ソフトは、唄のイントネーションなんかを自動的な設定でて、よりリアルな歌の表現力を増しています。
 これはボカロというジャンルで定義されているのかどうか不明ですが、仮唄さんの仕事がなくなってしまうのでは?と言われているくらいリアリティのある歌声になっています。

事例5)演奏してくれる
 シンセサイザーやサンプラーの発展のおかげで、もともと人の手でうまく打ち込むと、生演奏に近い表現力が出せます。自動演奏ソフトなどは、今は事前に準備されたMIDIパターンをランダムに引き出すだけのものが多いですが、これも、多彩なMIDIデータを生成AIに食わせてしまうと、自動演奏に近い形で再現するようなものが、出てくるかとおもいます。

 ということで、音楽にも、多かれ少なかれ浸透してきてますね。

すでにサブスクにでは運営がロイヤリティーを払わなくて済むように、AIアーティストが暗躍しているという都市伝説もあったりします。
AIアーティストが作って、AI Botが宣伝して、AI文章生成がレビューして広めて、、、みたいな世界がすでにできるかもしれません。

信じるか信じないかはあなた次第。

3.AIシンガーがコンピューターバンドを組んだよ

 ということで、ようやく冒頭の自分の曲の紹介です。興味ない方や力尽きた方は、読み飛ばしてください(涙)

 Natalie and Her Computer Band

 という架空のバンド。ナタリーというAIシンガーが、コンピューターバンドを結成して唄っているという設定です。

 しかし、ドラム以外はすべて人力の演奏。

 「どこがコンピューターバンドなの?」

 ということですが、

50000年後に生き残った自律型アンドロイドが、昔の人類に想いを馳せて、ありし日の人間(の演奏データ)をメンバーとしてバンドを組んだ

、、、というノスタルジックな設定です。

未来のAIシンガーが昔の人類に想いを馳せて唄っている、そして、逆に昔の人類(今の自分)が未来のシンガーを支えているというエモエモな曲です。

4.作品中の演奏紹介

 最後に作品中の「コンピュータバンド」メンバーたち(ほぼ人間)を紹介したいと思います。

 コンセプトとしては、コンピュータで作れば良いようなフレーズを、あえて人力で再現する、、、というようなシュールさを狙ってます。

4-1.ピアノ

電子ピアノで単調な繰り返しフレーズを人力で演奏

 電子ピアノを普通に手で弾きました。

 フレーズはシーケンスフレーズといわれるような、コンピューターでプログラムして作るような単調な繰り返しフレーズ中心ですが、それを人力で再現して、コンピュータに取り込んでいる、、、というバカバカしさを感じていただけると嬉しいです。
 電子音楽をルーツのひとつとしつつ、生演奏ピアノトリオで再現するという、GoGo Penguinリスペクトですね(彼らはバカバカしくありません!!)。

4-2.ベース

ベース 人間味を出すためにフレットレスで

 こちらは、人類代表みたいな感じであえて、打ち込みで再現するのがめんどくさそうなフレーズや音色でやってみました。
具体的には、フレットレスベース(フレットがないので、音階の区切りがあいまいになりやすい)を使って、スライド(ある音からある音まで、音を鳴らしながら移動していく)なんかを多用しています。

けど、こういうのも、今はうまく打ち込めば再現できてしまいます。

4-3.ギター

ギターはワウで人間味を出してみました

 ギターは普通のカッティング。曲が少しエモい感じなので、サビではエモエモな感じの歪みを使ったりしています。エフェクターは足元で操作しているので、ワウなんかのタイミングは人力感ありますね。キュイーン→キュドーンというところも、効果音ではなく、エフェクターで再現しています。

これも、効果音などのサンプリング音を使えば済むところを人力でトリガーしているバカバカしさを感じてもらえと幸いです。

4-4.手拍子

手拍子をコンデンサーマイクで収録

 もっと録音状態のよいサンプリング音源がある中、あえて人力でコンデンサーマイクを立てて録っているというバカバカしさを感じていただけると嬉しいです。
 2小節分録音+録画して、ちょっとづつずらすことで、5人が叩いているような感じで重ねてます。

4-5.DUBサイレン

ブオーンとか、キュルキュルとか効果音で、これこそコンピュータで作れば良いようなものを、あえて、実機を人力でトリガーして発生させてます。

レゾナンス発振の名器(?) AKAI MFC-42

 画面左側に出てくるのは、フィルターという、ある音域をカットしたりする機能を持つ機器。このつまみを、上手く回すと、音の波形が干渉したりしてブオーーーンという異音を発します。これを「発振」といって、好きな方にはたまらない音が鳴ります。

 AKAI MFC-42というアナログディレイで、今はもう作られていないし、フィルター機器としてはあまり人気はなかったように思います。ただ動画ではかなり遠慮していますが、極悪な低音を垂れ流す発振音が評判で、一部の愛好家から支持を集めています。

  BOSS DD-7 ←MXR Carbon Copy Delay ← BOSS DM2

 右側はギター用ディレイを3台つないでいます。右のDM-2は、発振界隈ではスタンダードな機種で、MOGWAIなどいろんな音源でも確認でき「あ、DM-2の発振やってるな?」と派手でわかりやすい発振音をならします。

ディレイの場合は、フィードバック音量を上げて、ディレイタイムを変化させると、発振します。

 いちおうDUBサイレンと名乗ったのですが、DUBというジャンルでは、こういう発信音を鳴らす専用の機械や、テープエコーの名器RE201などで、ディレイと同様の発振を鳴らしたりします。

4-6.ドラム

人力エレクトロニカなドラマーのフレーズを打ち込みで再現する

 ドラムは打ち込みです。ただ、元ネタはあってRichard Spavenさんという、イギリスロンドンを中心に活動するドラマー。
このかたは、打ち込みで作られたかのようなランダムっぽいタイミングの複雑なフレーズを人力で再現するというかた。JazzシンガーのJose Jamesのツアーに参加していたりして、抑えたプレイもできつつ、自身のプロジェクトでは人力エレクトロニカっぽいことをやられている方です。

 そんな人力エレクトロニカな人のたたいたドラムを、打ち込みで真似てみるという、バカバカしさを感じていただけると幸いです。

4-7.AIシンガー

バンドのリーダー/ボーカル Natalie(イメージ)

 Synthesizer V という、人工音声を使ってます。ボカロと言われるボーカロイドとは一線を画すもので、かなり人間に近い表現力を持ちます。打ち込まれた音を本物らしく近づけるためのパラメータが自動的に与えられる、、、みたいな仕組みがAIなのかな?実はよくわからずに、ほぼベタ打ち+ときどきパラメータをいじって使ってます。

5.着想の経緯

 この着想は、vuefloorさんというトラックメイカー/ギタリストのかたが、X(旧Twitter)で実施した企画に参加して、生まれた曲です。

あらためて感謝です。

どういった経緯かというと、皆からお題を集めて、2つガチャポンして、それをテーマにするというお遊び企画

 「雪」と「AI」

というテーマになったのです。なので、前述したようなAI/アンドロイドが次の氷河期(5万年後といわれているらしい)まで生き続けたら、人間は生き続けられるだろうか?みたいなことに想いを馳せてみて、人間がいない世界でも自律的な世界を築いているかも、、、というような着想で作ってみました。

あえて白黒にしたのは、むかしの生きていた人類の演奏だからという、レトロフューチャー感の演出です。

6.最後に

 AIやそれに限らずいろんな技術は多かれ少なかれ音楽制作に浸透しています。僕も曲を作っている身からすると、生成AIについては、何らかの規制は必要だと思います。

 しかし、一方で規制しても大きな流れは止まらないので、その技術とどうやって共存していくのかということを考えていく時代に入っていくのかな?というような気がします。

また、AI自体は、芸術利用に限らず、悪意ある人が気軽に使える技術になると、フェイクニュースや自動生成したウィルスで社会を不安定にして、自律戦闘マシンが押し寄せてくるというようなシナリオも考えられる、要注意の技術であることも間違い無いと思います。

ただ、それを防ぐのもAIを利用した技術になるのかと思うので、結局AIがどうこうというよりはそれを使う人間の問題なんだろうなとは思います。

まあ、どんなに夢のある技術も、人間の使い方次第、、、なのかなあと思いますね。


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