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「バブル期に現金の運び屋?先代社長の父から学んだお金の教育」(後編)

前編をご覧になっていない方はコチラから
https://note.com/akne_jp/n/nd0d431e95b66

~林ゆきおの「経済よもやま話」~

こんにちは。

後編では、無尽(むじん)の説明を先に述べます。

無尽は、仲間同士が相互扶助の目的で行う一種の出資です。

その歴史は古く、鎌倉時代にも遡る。今では山梨地方で一部の人々が無尽をしているという話も訊きます。

また沖縄では模合(もあい)と呼ばれる似た風習が残っています。詳しく知りたいなら、ネットで情報を集めてください。

具体的に説明します。

無尽のメンバーが10人集まって、月1回の会合を開いたとします。全員が毎月1万ずつ出資して、月々の積立金を受け取る順番を決めます。

あなたが初月に10万円もらった場合、すぐに自由に10万円を使えます。但し、10ヶ月目の最後まで毎月1万円の支払い義務が発生します。

元々、地域住民の生活費を潤すため相互扶助の目的で、この風習は継承されました。

現在の信用組合や相互銀行の前身を無尽作ったとも言われています。

ここまでなら素晴らしい土着の文化だと断定してもよさそうですが、これが出資額が膨大になると話は別です。

リスクがぐんと膨らみます。

T氏の父が参加していた無尽のルールはこんな感じでした(ちなみに無尽には様々なルールが存在するそうです)。

まずは親1人と子11人を決めて、12ヶ月間で毎月同額を積み立てします。初月は親が全員の積立金を満額で受け取ります。

毎月の積立金は平均100万~500万。時には毎月1000万を積立する無尽もあったそうです。なので、親の初月の受け取りが億を超えることもよくあったそうです。

翌月以降は、現金が早く欲しい子がいたら、当月の積立金から何割か引いて、セリ落とすことができます。複数の子が名乗り出たら相談で決めるそうです。

セリ落としの割引率は20~50%程度。割り引いた分は、親と他の子たちへ配当として分配されます。子がセリ落とすことができるのは1回だけ。

12ヶ月目の最後まで積み立てしなければなりませんが、他の子が割り引いた分の中から配当を受け取れることはできます。

親は子が資金ショートして積立できなくなったら、すべて肩代わりして同額を積み立てします。

資金ショート以外によくあるケースとしては、子が警察に捕まって、音信不通になってしまうことだとか。

親と子は持ち回りで役割を交代することもありますが、父の無尽では赤坂界隈で貸金業で大儲けしたA氏がよく親になっていました。


T氏の父はその当時は財力があり、配当だけでかなりの利益を出していたようです。

父と同じメンバーには、同じ建設業界の経営者や某保守系政治団体のお偉いさん、夜の商売で大儲けしていた飲食業経営者も多く参加していました。

中には、アダルト裏ビデオを販売して一儲けしていた社長もいたようです。また、その会合には自民党の元大物政治家もたまに姿を現していたそうです。名前は控えますが、誰でも知っているご存命の方です。

しかし、バブルの終焉を迎えると、子どもが逃亡し、親は保証能力を失い、多くの無尽が散会してしまいました。

父の逝去後にA氏に大して1億余りも債権が発覚しましたが、息子のT氏は回収することができませんでした。

なぜなら、A氏の会社は20億円の借金を抱えて倒産したから。もっとも、無尽は出資法違反に該当するので、法的手段に訴えることができません。

T氏はあの頃を振り返ります。

高校2年の息子に、父はなぜあんなに危険な真似をさせたのか?


父から社会勉強だと言われて、T氏は高校の期末テスト直前にもかかわらず、ある工務店に同行させられたこともありました。

それは、父から借金を背負ったまま社長が夜逃げた工務店でした。

父はあんなに世の中の細部を自分の息子に見せる必要があったのだろうか?

T氏はたびたび当時を振り返るそうです。

最近、親が子どもにお金の教育に関心が高いよく聞きます。

T氏の父の教育が正しかったかどうかは、これからのT氏の経営手腕にかかっているのだと思います。

取材を終えて、T氏はこう語りました。

「今回、父との思い出を記録に残すことで、二代目の社長として新たな決意をもちました。

父の派手な振る舞いばかりが記憶に残っていましたが、同時に私に伝えることのなかった苦悩も数え切れないくらいあったと思います。父の想いをもっと豊かに想像していくことが会社の発展につながると確信しました」

私も微力ながら、まだ紹介されないT氏の父のエピソードを皆さんにお届けしたいと思います。