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『グッドバイ、バッドマガジンズ』とエロコンテンツ

はじめに

 大学の忙しさが落ち着いたのでひさびさに映画を見ようと思って、『グッドバイ、バッドマガジンズ』を見てきました。架乃ゆらさんの名前につられて興味を持った作品。
 結論から言うとすごい面白かったので、映画レビューとかしたことないけど、もうその日にnoteを書いています。というわけでネタバレ込みの感想。

あらすじ

INTRODUCTION
誰もが一度は見たことがあるコンビニの成人雑誌の棚。成人誌という性質柄、雑誌の制作過程はあまり知られていない。その知られざる性的メディアの裏側で従事する者の苦悩や問題点を多数の関係者から取材。実話を元にした本作は脚本執筆に3年以上をかけ、また完全自主制作という制作スタイルを生かし、大手映画会社が作ることのできない忖度ナシ、配慮ナシの作品を完成させた。
電子出版の台頭による出版不況、東京五輪開催決定によるコンビニからの成人雑誌撤退、さらに追い打ちをかけるように起きた新型コロナウイルスなど、激動の時代に生きた彼らにスポットを当てた業界内幕エンターテイメント。

ホームページより



感想(ネタバレあり)

 設定は2010年代後半の成人雑誌編集部。四ツ谷の街並みから一転して魑魅魍魎なエロ本編集部。だけど、なんとなくそのカオスな空間が居心地良さそうにも見えてしまう。個人的な話をすると中高で所属していた文化部の空気感がそのカオス空間に近く感じた。だから、主人公が適応したように、あの空気の居心地良さがわかるような気がした。でも、物語が進むにつれて、エロコンテンツ業界の息苦しさやブラックさも垣間見えてくる。出版業介あるある(?)のオフィス宿泊とか、禊でAV男優とか(←嫌すぎる)。

 それにしても、とにかく描写が身近だし、俳優さんの演技が自然で世界観に溶け込んでしまった。やっぱり、カオス空間を構成するキャラクターが濃くて好き。個性が突出した変な人ばっかの空間ではあるけど、作っているものに対する情熱はみんなある、みたいな。そして、ラストのラブホテルに奥さんが乱入し、向井が首を切られてしまうという超シリアスでありながらも、吹き出してしまいそうなおもしろさの共存というこの映画の雰囲気を象徴している。

 まあ本編の感想をいくら書いても冗長だからもっと冗長な私個人のこの映画を通じて思ったスケベコンテンツに対する感想を。
 現在大学生のわれわれ世代は物理的媒体からエロコンテンツを摂取するという行為にあまり馴染みがないのではないか。エロコンテンツといえばアーカイブに、電子の海にあるのが当たり前な世代。当然、それ以前の主流は紙やディスクといった物理媒体だったわけで。それに拍車をかけるようにコンビニからエロ本が消えた。誰かの世界のために。この映画は、一つの文化が死にそうになっている中、全体的に無力感というか、どんよりした空気が全体的にある。そんな重苦しい雰囲気でありつつも、ところどころがっつり下ネタのコメディーによって中和されている。いずれにしても、見終わったあとに残ったのは閉塞感と社会の息苦しさだった。

 露骨なエロはコンビニという表面から姿を消してしまった。そして、これからもっと、さまざまな表現に対してきびしい時代が来るような気がする。しかし、深層にあるエロコンテンツはつねに表面の誰かのための世界を脅かす。いずれにしても、結果的には社会的なもの流れには抗えないし、文化が死ぬ時であっても、会社はクソだし社会は理不尽だし、ただ流されることしかできない。でも、その虚無感だけではなく、深層にいつつ、創作していく力強さのようなものを感じた。そうするとやっぱり、これからは同人文化が物理媒体のスケベコンテンツを担っていくのだろうか。

 映画の最後の「目的なくおこなうSEX」のような、〈〜のために〉という”関係性”から逸脱したエロにこそ文化的な強度があるような気がする。映画の中にも序盤で主人公が何がエロいのかと向井さんに聞いた時、「関係性」みたいなことを言っていたけど。規定の”関係性”の構造を超え出るような強度というか。よくわからないけど。とにかく、全体としてはどんよりしているはずなのに、何かよくわからない精力をもらえた。

 最後に、第四の壁のこっち側の劇場内の話をすると、39人の席でほぼ満席。半分以上がおじさんだった。映画内で下ネタが炸裂するとおっさんの笑い声が聞こえてきてこっちまで釣られれる感じが心地よい。最近、といっても去年の12月に『RRR』をみて、「ぜったい映画館で見るべき!」って色んな人に布教したけど、この映画も映画館で見てほしい!
 エンドロールの雑誌の表紙協力のような欄に見覚えがあるAV女優がズラーって並んでいるのに感動(?)。なんも下調べせずに行ったので、いきなりのジューン・ラブジョイで笑っちゃったし、よく知ってる四ツ谷の情景でびっくりして椅子から落ちそうになった。
  あと、自分語りということで、自分が前の大学で建築系のことを専門に学んでいた時に、「1番スケベなラブホをデザインしたい!では、官能的な空間とは何か?」みたいなことを冗談半分に考えていた。だから、創作する側としての「エロとは何か」を問いながら仕事をする主人公や個性的な登場人物たちにちょっと憧れた。


という、Twitterの延長みたいな、自分語りというか、そんな駄文でした。それでは!(追記するかも。)


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