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日記:喪失感を喪失しかかった日

 日記です。いつもは何か結論ありきで記事を書いてますけど、たぶんきょうはとりとめもないです。


 ※この記事は人の死について触れる内容ですので、最近誰か身の回りでどなたか亡くした方や気持ちが落ち込みやすい方は避けていただくと良いかもしれません


 先日感想を書いたワニのヤカさんによる「無期限活動」でビッグネームが去っていく喪失感について触れましたが、それでふと思い出したことを書きとめておきたくて。
 いい曲なんでこの記事にもリンク貼っときますね。



 去年の暮れ、祖母が亡くなったんですね。
 ……あっいや!べつに吹っ切れてないとかじゃないです。かなり前から整理はついています。あんまり悲しいとか傷を負ってるとかって話ではないです。
 そういうことではないんですが、祖母が亡くなったときに思ったことがあったんですね。


 祖母については、おれはそこまで深く関わったことは最近なくて、苦手だったり少し疎遠だったといってもいいくらいなんですけど。
 末期がんと認知症であと半年の命だね、なんて言われている状態から母が介護したり様子を見たりして2年くらい粘って施設で暮らしていたんですけど(そのあたりでおれも精神的に区切りがついていた)、昨年のほんと年末も年末に永眠して、葬儀を執り行いました。

 ただ、祖母が亡くなったタイミングで、運悪く施設がコロナウィルスのクラスターになってしまったんですよね。もちろん祖母はウィルスとは関係なく亡くなったんですけど、「生前に感染して保菌しているかもしれない」という懸念が浮かんでくる。
 検査の結果、祖母は陰性で葬儀は無事に執り行えたんですけど、母曰く「施設から出てきて棺桶に納められたとき、遺体がビニールに包まれていた」と語っていて、おれはそれを聞いた瞬間めまいがするようなショックを感じたんですよね。


 「ああ、いま命を落とすってことはそうなるんだな」って。陰性だからまだ結果的には良かった。ビニールは取り払われて無事葬儀を行うことができた。
 でも、もしまかり間違って、少しタイミングがズレておばあちゃんが感染していたら、どうなっただろう……。そうすると遺体は"処理対象"になる。完全に密閉された死体袋に詰められ、そのまま厳重に火葬される。
 葬儀は遺体もなく棺桶なしで行われ、最後の最後に身体を触って涙を流すことも足袋を足に履かせてあげることも、六文銭を添えることもたぶんできなかった。きっと実母を見送る母の胸の内には、「最後の最後をしっかりと見送れなかった」というしこりが残っていたかもしれない。
 いままでどおりの葬儀の手順に則り、喪失感をしっかりと受け止めて日常に戻るという機会そのものを喪失していたかもしれない。


 思えばおれはずっと他人事でした。もちろん感染したら困るなと思ってマスクは欠かさなかったし、しっかりワクチンを打ったりとそういう意味での対策はしていた。けれども根本的にこの感染症災害に対する当事者意識というか、我が身に起こっていることとしての意識が薄かった。
 PS4のコントローラーを通してディビジョンエージェントを操り、どこもかしこも黒い死体袋が積まれたタイムズ・スクエアを通り過ぎる。源石病患者が砂にうずめられオリジニウムの塵になるシーンをスマホの画面越しに眺める。そうやってフィクションのなかで他人事で済んでいた事がいま、まさに、現実で起こっている。
 他の誰でもないおれがこの大病禍のただなかに突っ立っているんだ。その自覚が一気に大津波となって殴りつけてきた。


 年が明け、三が日に庭の雑草を抜きながら、「最後まで自分で世話できんで施設に入れて、こんな家族葬でそこそこに見送っちゃってね……」とこぼす母。おれはそれを土を払ってゴミ袋に放り込みながら「いや、母さんはしっかりやったと思うよ。最後にちゃんと遺言通りやって、おばあちゃんも納得してるじゃないかな」なんて声をかけながら、その日受けた衝撃をぼんやりと思い返していました。


 コロナウィルスが五類の扱いになって、「そんなこと言ったって別に病気がなくなったわけじゃ……」なんて思っていたけれど、ヒトが今までどおりの営みに近づいていけるということは、葬儀をいままでどおり執り行えるということでもある。
 「葬式は生きている者の心の整理のためにやるものだ」ってのは本当にそのとおりで、じゅうぶん満足に見送って、「ああ、できることはやりきった」と思える最後の機会がここ数年とてもやりにくかった。それがいまでは前の手順通り葬儀を進められ、遺された人がしっかり自分の中の喪失感に向き合えるようになってきた……。


 病禍が終わりきったわけではなく、形だけの日常が帰ってきたに過ぎないとしても、いままでのことを今までどおりにできることがどれほど救いをもたらしているのだろう……。
 曲を聞きながら、そんなことを思いました。


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