ことばとからだで紡ぐ、アイデンティティ 第2話

すこやかなかけらをあつめる

SFとNYの旅を通して、私は環境がいかにたいせつであるかを学びました。社会制度や周囲の価値観が、個人にどれほどの影響を与えるのかを肌でかんじました。それと同時に、アートとダンスが、私自身を支えるたいせつな存在であることも再認識したのです。

日々をすこやかに生きるためのヒントをたくさん得た気もします。帰りのスーツケースには、これからの自分を導いてくれそうな本やDVD、カタログ、自分らしさを感じられる服をたくさん詰め込みました。

その頃から、知識を深めるために多くの本を読みはじめ、身なりも少しずつ整えはじめました。心地よい服を身につけることで、自分自身を肯定する感覚を強く持てたからです。旅先で感じたあの軽やかさを、日常でも再現したいとおもっていました。

すこしずつ、見えてきた道しるべ

しかし、現実はすべてが順調に進んでいるわけではなく、大学に通い続けることに対する迷いも強くなっていました。退学を考えるほどに、体力も精神力も限界を感じていたのです。環境はアメリカに行く前とほとんど変わらず、失望感が募るばかりでした。

それでも、ニューヨークで出会った方から「卒業までは頑張ってみて」と励まされた言葉が、私を支えてくれました。卒業制作は暗闇の中からのスタートでしたが、なんとかステートメントを完成させることができました。

アメリカの経験や、日本に戻ってからも、本を読むことや劇場、現代アートを通して、世界を広げる日々が続きました。これが、私自身のアイデンティティを強化し、卒業制作を一つの区切りとして形にすることができたのです。わたしの新たな一歩を踏み出すための象徴的な作品でした。

そして、これがあらたな道しるべとなり、社会人生活の中でこれから解決すべき課題が見えてきました。

ことばとからだがつむぐ道しるべ

卒業制作後には、最後の大きなミッションが待っていました。木幡和枝先生が2014年度で退任されることが決まっており、私たちは最後の研究室生でした。先生が長年愛用していた研究室の解体がひつようだったのです。

卒業生たちが集まり、泊まり込みで解体をすすめました。毎晩の宴会では、先輩たちが学生時代の思い出を語り合い、アートが彼らの心の中に常に存在していることを教えてくれました。その時間は、私にとって未来への希望とあんしん感を与えてくれたものでした。

ともに歩む瞬間

卒業して5年が経とうとする頃、私は渋谷のホステルで働いていました。海外からのお客様と英語でコミュニケーションを取ることに楽しみを見出し、施設を管理することにやりがいを感じていました。上司にも恵まれ少しずつ忙しいながらも社会での自分の居場所を見つけられていました。しかし、その時、木幡先生の訃報が届きました。

職場でその知らせを聞いた瞬間、私はおおきな衝撃を受けました。もう一度お会いしたかったという後悔の念がつよく押し寄せ、残してしまったメールの下書きが、私の心に重くのしかかりました。

この曲を聴くようになってから、いつも木幡先生を思い出すようにもなりました。

小さな革命の兆し

もし、今木幡先生が目の前にいたら・・・・

きっと私が取り組んでいる服づくりに興味を持ってくださるとおもうんです。先生は、アートそのものよりも、それを作り上げる「人」に関心を寄せていた方でした。その温かさと鋭い視点が、私の学びの根底にあります。

振り返ってみると、私は多くの人々に支えられ、多くのことを学んできました。先生とのつながり、そしてその後も多くの出会いが、今の私を形作っているのです。

この経験を通して今、私は「みんなの居場所をつくる」という服つくりで、恩返しをしていきたいとつよく感じています。

アートやダンス、社会経験を通じて学んだことを、私自身の方法で社会に還元する。
そのために、これからも”いふくと”と共に歩んでいきたいとおもっています。

#小さな革命
#いふくと
#ともに歩む
#服でみんなの居場所をつくる

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