【エッセイ】春に刺さった棘の追憶
まだ桜が咲く前のころだった。
仕事中に来たLINEの送り主は中学校時代からの友人で、仕事で東京に来ているから今夜飲もうという誘いだった。
こうして数年振りに連絡をくれた友人と、仕事終わりに恵比寿で飲むことになった。
1軒目の店を出たのは、家に帰るには早過ぎて、もう2軒目に行くには少し遅いような時間。軽く飲むのに最適な店をすぐに見つけることもできなかった結果、コンビニでビールを買って公園で飲むことになった。
寒空の下で開けた缶ビールを、アルコールを摂取するのが目的のような乱暴な飲み方で減らしていく。そうやってビールを飲んでいる時に、久しぶりに会った友人から面と向かって名指しで「面白くないよな」と言われた。今となっては、どのような話の流れで友人がそんなことを言い出したのかを思い出せない。そして追撃するかのように、面白くないのにこれまで(自分のような面白い)友達がいてラッキーだったなみたいなことまでも言われたと曖昧ながらにも記憶している。
言われた側の僕は、反論もしなければ、最適な言葉を見つけることもできずただ話題が変わるの待つだけだった。その後の話題は、酔っ払いたちに振り回されてあっちこっちに飛び回り、少し飲み足りない雰囲気を残しつつ解散となった。
やっと怒りの感情が出てきたのは、恵比寿駅から日比谷線の電車に一人で乗った時だった。春と呼ぶにはまだ寒い夜風に酔いが少し覚めて、自分の中に引っかかっていた彼の「面白くないよな」という言葉の痛みに目を向けたんだと思う。そして、ただ酷いことを言われたという確かな実感が心に居座るようになっていた。
そんな出来事があってからもう半年近くが経過してこの文章を書いている。こうやって文章にすることで、当時の出来事と自分の気持ちに向き合うことで、ひとつ乗り越えられそうな気がしていた。最初は、当日の出来事の詳細までを思い出そうとして、少しだけまた腹立たしい気持ちになったりもした。それでも、何日もかけて少しずつ書いては消してを繰り返していくうちに、不思議と「もうどうでもいか」という感情が強くなってきていた。結果として気持ちには一区切りつきそうな気配はあった。
恐らく彼とはもう会うことはないのかもしれないと思っている。それでも、彼から誘われたら何事もなく行けるよう自分になっている日が来るといいなと思う。
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