見出し画像

ひたむきさが胸を打つ、青春ど真ん中を描いた「チア男子!!」

※2019/5/14にアップした記事の再掲です。

実在する早稲田大学男子チアリーディング部「SHOCKERS」をモデルに、同大出身の朝井リョウさんが書いた小説を実写化した映画「チア男子!!」が公開された。

「チアリーディング」という難易度の高いスポーツが題材のため、これまで何度も実写化の話が出ては頓挫してきたという作品を、今回横浜流星くんと中尾暢樹くんのW主演で実現。共演の浅香航大くん、瀬戸利樹くん、岩谷翔吾くん、菅原健くん、小平大智くんと共に男子チアチーム「BREAKERS」の結成から初舞台までの軌跡が描かれる。「ウォーターボーイズ」や「ちはやふる」などの青春映画好きのわたしとしては非常に楽しみにしていたが、期待以上の素晴らしい作品に仕上がっていた。

柔道一家に生まれたものの、才能ある姉と比べ柔道への情熱を持てずにいたハル。ケガを機に柔道を辞めようと思い始めた時、幼なじみのカズの誘いでチアリーディングを始める。

「ハルには応援の才能がある」というカズの言葉通り、人の痛みも苦しみも喜びもすべて自分事として受け止めて声援を送るハルのまっすぐさに惹きつけられた。素直で感受性豊かで、周りの人のことを思いやれる優しさを持つハル。心からの輝く笑顔で「誰かを応援したい」という気持ちが溢れているハルを演じる流星くんの、透明感溢れるナチュラルな演技が素晴らしかった。ハルは優しさと透明感の塊だ。

ハルのキャラクターに合わせて調整したという声のトーンが、まさにハルのイメージにぴったり。流星くん本人曰く「ふにゃふにゃの笑顔」も、誰かを応援する時のキラキラした瞳も、ハルそのものだった。「可愛い」と言われることに抵抗があるという流星くん…申し訳ないけれど、今回のハルは可愛さが爆発していたと言うしかない笑

そんなハルの幼なじみで、無二の親友であるカズ。両親を早くに亡くし、育ててくれた祖母は認知症を発症……唯一の家族である祖母に自分のことを憶えていてもらうため、チアリーディング部創設を決断する。

太陽のような明るさと仲間を引っ張るリーダーシップの裏側に、誰よりも深い悲しみを抱えるカズを演じた中尾くんの表現力が光っていた。特に一度チアを辞めようとした時、ハルの「一人とか言うなよ」という言葉を受けて練習に戻ってきた時の、瞳に涙を湛えた笑顔が忘れられない。

また殻を破る一歩を最初に踏み出した溝口と、溝口に背中を押されてチア部への入部を決めたトン。抜群の運動神経を持つ天才肌のイチローと、イチローの幼なじみで彼の才能にコンプレックスを抱いてきた弦。この2つのペアのエピソードが秀逸。どちらもふたりの関係性が深まっていく中で、一人ひとりがしっかり成長していく過程が丁寧に描かれていたのが素敵だった。

そして7人の中で唯一のチア経験者だった翔は、過去にチームメイトのさくらをスタンツでキャッチできず大怪我をさせたトラウマを抱えていたが、BREAKERSのメンバーと出逢い「チアが好き」という気持ちを再び思い出す。

車椅子での生活を余儀なくされながら、翔をもう一度チアと向き合わせたさくらの強さと笑顔はとても眩しく、勇気づけられた。昨年「寝ても覚めても」で観た唐田えりかちゃんとはかなり違った印象。こんな強い女性を演じるイメージはなかったので少々驚いたが、さくらをとても魅力的に演じていた。

今までの自分の殻を破りたい――そんな強い想いを胸に、7人がチアリーディングに挑戦する姿があまりにも清々しく眩しかった。チアの基本の"笑顔"が全編に溢れており、各々が抱える問題や葛藤を乗り越えて辿り着いたラストチアのシーンは、涙なしでは観られない。

3ヵ月に及ぶ過酷な練習を積んでチアを身体に叩き込んだ7人の頑張りや、ケガを押してラストチアに挑んだ流星くんのことを思うと、涙が止まらなくなる。7人のひたむきさが胸を打つ……まさに青春だ。

またキャストのみなさんが見所として挙げていた、オープニングの長回しのシーン。これが物語の導入として、本当に素晴らしかった。映像だからこそ描けるシーンだが、よくぞこの構想を撮り切ったと思う。風間監督はまだ27歳。これからどんな作品を撮るのか、とても楽しみな存在になった。

青春ど真ん中を描いた「チア男子!!」は、令和という新しい時代のはじまりにもふさわしい1本だった。この先おすすめの青春映画として、個人的に激押ししていきたいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?