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「ほんとうのこと(ことばについて)」【詩】

寝たきりの
おじいちゃんがしゃべった
ことばではないことばをしゃべった
よく晴れた春の朝だった
とうにおじいちゃんは
ことばをすててしまっていた
たよりにならないことばなんか
あてにするのをやめていた
その朝、ぼくたちはことばよりも
高度なことばで話をし
挨拶なんか交わさずに握手をした
そうだ、
ことばをたよりに暮らしてきたぼくとしては
こどもたちに国語をおしえてきたぼくとしては
それはずいぶんとこまったはなしだけれど
それがほんとうなのでしょう
ひとにとって
人生を存分に生きるという大きなテーマを
いまもっとも真摯にみつめようとするひとにとって
それがほんとうなのでしょう
ことばなんか
たいしてあてにならないということ
そうですよね、おじいちゃん
おじいちゃんは
ことばではないことばで
ぼくにさっきからエールをくれる

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