「途にたおれて誰かの名を呼びつづけたことがありますか」
夜、iPodの選曲機能をシャッフルに設定して、音楽を聴いていた。ジャンルを問わず、いろいろな国のいろいろな歌が、僕のiPodには入っている。
いつの間にかうとうとしていると、夢とうつつの狭間に、日本のフォークソングの前奏が流れてきた。
女の人が朗々と歌いはじめる。
〈途(みち)にたおれて誰かの名を / 呼びつづけたことがありますか〉
そのとき、まるで道に倒れた誰かから自分の名前を呼ばれたようなおどろおどろしさにはっとして、目覚めたのは言うまでもない。
中島みゆきの『わかれうた』だ。
いつ聴いても凄い歌詞。けれど蓮烈な印象は歌詞だけによるものではないだろう。みゆきさんの鬼気迫る歌声が言葉にある種の怨念を宿すかのようだ。
これこそが、日本の歌の“言霊”というやつだろうか。
この人の声で名前を呼ばれつづけたら、男はひとたまりもないだろうと思う。
〈別れはいつもついて来る / 幸せの後ろをついて来る〉
幸せと隣り合わせに別れがあるという、人生の真理を、古き良き時代のヒットソングは教えてくれる。
あまり人の恨みは(とくに女の人の恨みは)買わないほうが賢明だろうということも。夜道で名前を呼ばれつづけたくないならば。
終わり
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