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「冗談」【詩】

ナーシングホームの
あかるく閉ざされた部屋
高い声の人たちが去り
ふいにぼくらはふたりぼっちになる

なんねんぶりの
ふたりぼっちか
かける言葉もなく
また 当然のことながら
かけられる言葉もない
地球はふいにしんとして
あなたの荒い呼吸ばかりが
小さくとどくこの耳朶に
あるいは いたたまれなく白い布団にふれるこの手のひらに
たしかに ほんとうに あなたから
受けつがれたものがながれている

水を飲んでいるだけの人生は
あと 二週間でおわるって
ほんとうですか?
あんなに体のつよかったひとが

ぼくは あなたの好きだった
石原裕次郎の歌をかける
それを奇跡とよぶのは なんだか
おおげさすぎる気もするけれど
スマートフォンのシャッフル機能が
数多くの歌からえらび うたいだしたのは

 わが人生に悔いなし

という歌だった

それが
さいごの冗談に
ならぬようには祈るけれど ね

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