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「その海はとても粗末なジオラマだった」

おかしな夢をみた。

海辺にある、瀟洒なコテージのような建物の一室に、ピカピカのスポーツカーが二台、並んで止まっている。

鼻の下に奇妙にかたちの整った髭をたくわえた、スーツ姿の大男がその隣に立っていて、その車がいかに高級なものであるかを立て板に水のごとく説明してくる。

へえ、そんなにスゴいものなんですねえ、と車に興味のない僕はいちおう感心してみせるが、車体に近寄ってじっくりそれを見てみると、車はダンボールを貼り合わせて作った、まったくの偽物であることがわかってしまう。

「ポーランドの高級車のニュー・モデルなんですよ……」と男は物々しい調子で言う。

僕は男の言葉を聴き流す。そっとダンボールの車体に触れると、すっかり乾いた白ペンキの塗装がぽろぽろと剥がれて、かなり焦った。

車の説明を聞き終えて、外に出ると、目の前は海だった。

青い空の下、広大な海原にはウインド・サーフィンをしている若い男女がたくさんいる。僕は爽快な気分で真夏の潮風を浴びる。

けれど、その光景も、どうやら偽物であるらしい。

目を凝らして見なくても、僕にはそのことが確信されてゆく。……人間は人間でなく、海は海じゃない。それは間違いなく偽物の海、偽物の夏の光景!

その海はとても粗末なジオラマだった。

僕はため息をついた。

そしてどうやらこれは夢のなかのできごとらしいと、だんだん気がついてくる。ほっとする。そして目の前にせまった夢の終わりを手探りしながら、憂鬱な気分で考える……

ーー”正真正銘の本物”なんてものが、果たしてこの世界に存在するのだろうか?

明大

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文学の海に漂いながら、音楽の風に吹かれてます。船はどこへ行くのやら。文章書き from 香川。