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訴えの影に隠れている症状は、○○で解決

 保護者が子どもに対して、発音の不明瞭さで抱えている悩み。
でも、発音の検査をしても、運動の検査をしても引っかからない。この方法で保護者は納得しました。

 『学校に登校する時、上級生と一緒に行くんですが、うちの子どもはあんまり喋らないんです。』
 『学校でも、話が通じてないみたいで、発音の練習が必要だと思うんです』

 言語聴覚士として、病院でお子さんや、その保護者さんと関わっていると、必ずあるご相談内容です。
 基本的に言語聴覚士が対応する内容となると、言語か構音(発音)、吃音、聴覚、認知、嚥下といったコミュニケーションに関わるところでしょう。

 今回のご相談でも、保護者さんのお話をうかがい、大まかにコミュニケーションのどこにお困りかなぁーっと的を絞りながら、面接を行なっていました。

 その後、お子さんと日常の他愛もない話をするものの、ほとんど会話が成立してしまいます。
これはどうしたことでしょう?
保護者さんのお悩みは、子どもの発音の不明瞭さです。

質問用紙で全身の発達について確認します。
年齢相応です。
発音に関連するところで、気になるとこはありません。

構音(発音の)検査を行います。
絵を見てもらいながら、その名前を言ってもらったり、文章を読んでもらったりしました。
わずかにサ行、ザ行が言いにくそうですが、専門家が聞いて気になるレベルです。

随意運動発達検査を行います。
意識して発音の器官を動かす事には、なんら問題がないようです。代償的な反応も出ていません。

発音の器官の巧緻(細かな)運動を確認します。
顎がしっかり安定した上で、唇が脱力して、舌を動かす事ができています。

 ここまで検査を行ってみて、明らかに引っかかる症状がありません。
カ行やサ行が、タ行の発音に置き換わる等、明らかに発音が歪んでいれば、保護者さんの悩みも納得がいきます。

もう一度、保護者さんとの面談に戻ります。
これまでの検査の様子を説明しながら、保護者さんに色々な質問をしていきます。

どんな言葉が聞き取りにくいですか?
どんな時が聞き取りにくいですか?
その時のお子さんの様子はどうですか?
学校の先生は何か仰ってますか?
お友達とは言葉でのやりとりはできますか?
お友達と公園で遊んだりされますか?
何人くらいでよく遊ばれますか?
どんな遊びが好きですか?

 もちろん、こんなテロの尋問のようには聞きませんが、様々な角度からお子さんの様子について伺い、1つの仮説が出てきました。

『軽い衝動性なのでは?』

 今度は日常にある、不注意や多動・衝動性についての質問を保護者さんに尋ねます。

話の聞き逃しはありますか?
図工の細かな作業を根気強くできますか?
音読の時、文末の読み誤り、改行間違いはありますか?
遊びがコロコロ変わることはありますか?

他にも色々尋ねましたが、ほとんど当てはまりました。

 お子さんとの会話にうつります。
 今度は先ほどとは違い、STから話のテーマは提供しません。
すると、お子さんから話し始めますが、話したいテーマが次から次へと出てきます。話のテーマが変わるたびに、始めの数語は聞き取れません。
テーマが変わって、しばらくすると、話の明瞭さは上がってきます。

『なるほど!!!保護者さんが悩んでいたのは、これだったか!』

 保護者さんの訴えは確かに発音の不明瞭さでした。
しかし、今回のような場合、意識的に集中して行う検査には、検査結果として引っかからない場合があります。

 発音の不明瞭さの背景には、軽い衝動性があり、話し始める度に、初めの方は、話し手と聞き手にテーマの一致がありません。そのため、軽度の発音の不明瞭さでも、保護者さんの聞き取れなさは強く感じられたんですね。

 今回、保護者さんには積極的傾聴を行い、沢山の情報を整理しました。
改めて、検査は万能じゃないんだな!と実感しました。
会話の中に答えがあって、今回は運良く引き出す事ができました。
これを機に傾聴のトレーニングをやってみたいと思います。

 今回のことを保護者さんにフィードバックしたところ、とても納得されていました。あとは衝動性と発音練習に対するアプローチを、保護者さんに丁寧に伝えて終了しました。次、お会いする時、発音が良くなっているか楽しみですね。

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