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岸田首相は、「持家の帰属家賃を除く総合」前年同月比が3%台に戻った5月消費者物価指数発表日の夕方の会見で、消費者物価指数・前年同月比の押し下げを目指すと、実質賃金プラス化のハードル下げにつながる動きを発表。―景気の予告信号灯としての身近なデータ(2024年6月24日)―

消費者物価指数・前年同月比「月平均0.5ポイン以上」の押し下げ効果を求め、岸田首相が物価高対策として電気・ガス代の補助金を8〜10月に追加実施し、ガソリン補助金も年内に限り続けることを表明。 

 岸田首相は6月21日、第213通常国会の23日の閉会を控えて首相官邸で記者会見を開きました。その中で、物価高対策として、5月使用分を最後に終了した電気・ガス料金の負担軽減策を8〜10月に追加実施する方針を明らかにしました。また、ガソリンや灯油など燃油価格の抑制策を年内いっぱい継続することも示しました。今年秋に経済対策の策定を目指すとした上で、年金世帯や低所得者を対象に給付金を支給することを検討することを明らかにしました。
 
 電気・ガス代の補助金の一時再開は、酷暑乗り切り緊急支援という名目ですが、今年の夏はラニーニャ発生の可能性が高く暑い夏になるという予想はかなり前から出ていたにもかかわらず、7月の電気代は高くなることを容認していたので、唐突な方針転換という印象が拭えません。首相は会見で「緊急支援として最も即効性のあるエネルギー補助を今回に限って講じる」と強調し、一連の物価高対策により、消費者物価指数について前年同月比の上昇率で「月平均0.5ポイント以上」の押し下げ効果を目指すと述べました。

 春闘賃上げ率が約33年ぶりという高水準の伸び率になったことで、岸田首相は近いうちに「物価と賃金の好循環」が実現すると思ったことでしょう。ところが、4月実質賃金・速報値は前年同月比▲0.7%となり3月の▲2.1%からはマイナス幅が縮小したものの、マスコミが大きく報じたのは、「実質賃金は過去最長の25カ月連続マイナス」となったことでした。

 しかも、今年は大所高所からの政策判断がなされず、5月・6月も政策的に消費者物価指数・前年同月比の上昇要因があります。各省庁が各々良かれと思って対応したことが相俟って、消費者物価指数は年初から半年間で前年同月比1%分も高くなるという状態で、実質賃金・前年同月比のプラス化のハードルを引き上げるという愚策を行ってしまったことに、ようやく気が付いたのでしょう。

現金給与総額の前年同月比を上回る状況が継続している、持家の帰属家賃を除く総合の消費者物価指数の前年同月比。

 ここで、実質賃金と現金給与総額、持家の帰属家賃を除く総合の消費者物価指数の最近の動きをみましょう。4月実質賃金・速報値は前年同月比▲0.7%マイナスとなりました。約33年ぶりと言われる高水準の春闘賃上げ率が反映され始め、現金給与総額は前年同月比+2.1%の増加と23年6月以来の2%台に乗せたのですが、デフレーターの、4月持家の帰属家賃を除く総合の消費者物価指数・前年同月比+2.9%上昇で3カ月ぶりに2%台に低下したにもかかわらず、賃金の伸びが物価上昇に追いつきませんでした。しかも、21日の記者会見の朝、閣議報告された5月の持家の帰属家賃を除く消費者物価指数総合・前年同月比は+3.3%と3カ月ぶりに3%台に戻り、5月も賃金の伸びが物価上昇に追いつきそうもありません。さらに6月・7月と前年同月比が高まっていくと予測される状況です。

1月から7月までで、消費者物価指数は約1%ポイント、各々の政策対応で上昇率が高まる。

 コロナで海外への渡航が制約され安定的にデータが取れなかった「外国パック旅行費」で上昇の影響を3年分一気に反映させたため24年1月以降、消費者物価指数は+0.2程度押し上げられています。
 
 5月から再生可能エネルギー発電促進賦課金単価が1.40円/kWhから3.49円/kWhに引上げられたことを主因に電気代が上昇。全国消費者物価指数では4月▲1.1%の下落から5月+14.7%上昇し電気代は0.50%ポイント、総合・前年同月比上昇に寄与しました。
 
 5月全国消費者物価指数の公表資料によると、「電気・ガス価格激変緩和対策事業」による押し下げ効果・寄与度は▲0.48[試算値]となっています。6月支払い分で半分押し下げ効果がなくなり、7月支払い分では全ての効果がなくなります。
 
 年初から、消費者物価指数・前年同月比は各々の政策対応の合計で約1%分もハードルを上げた、もどかしい状況になっていました。
 

ガソリン価格の抑制策を12月まで継続すると、7月末にマイナスに転じ、9月初めに最もマイナス幅が大きくなる見込み。

 電気・ガス料金の負担軽減策を8〜10月に追加実施すると、9月支払い分から11月支払い分まで、消費者物価指数の前年同月比が低下します。

 また、ガソリン価格の前年同週比は、5月までは+4.0%前後でしたが、前年が上昇局面だったので6月17日に+2.7%まで低下しました。ガソリン価格の抑制策を12月まで継続することが表明されたので、年内まで1ℓ=175円が続くと仮定した場合、7月29日の▲1.0%とマイナスに転じ、最もマイナス幅が大きくなるのは、9月2日の▲6.2%です。12月末には0.0%に戻る見込みです。5月に総合に対するガソリンの寄与度は+0.09でしたが、9月は▲0.07%程度に低下するものと思われます。
 
 9月になると、消費者物価指数の面からの実質賃金・前年同月比プラス化のハードルは下がることになると思われます。

※なお、本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。