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奇古堂沈甫翰氏備忘

2023年8月31日に奇古堂店主の沈甫翰 (シン・ホカン、シェン・ユーハン)氏が亡くなられました。
1932年生まれの92歳でした。

奇古堂は台湾にある茶と茶道具の店で、特に小ぶりの茶器が人気でメルカリに出るとすぐに売れてしまうほどです。
台北駅から4kmほどの福華大飯店(The Howard Plaza Hotel Taipei)の地下1階で奥さんと2人で小さな店を営んでいます。

台湾での仕事の帰りに氏に親しい中国茶芸師の紹介で訪ねています。
初めて訪ねたのは2020年は新型コロナの嵐が来る前の1月で到底茶を扱っているように見えない外観に戸惑いながら入店しました。

骨董屋といったほうが信じてもらえそうな外観ですがお茶の店です。
時間もないのでおススメの茶を買うだけのつもりだったのですが、店内に中国茶の店によくあるような茶筒が並ぶ光景も売り物が積んであるわけでもなく途方に暮れることになります。
沈氏は日本語が堪能でほかにお客もなかったのでお茶の接待をいただきました。

接待いただいた茶器がくだんの物で、薄い磁器で焼き上げられた小さな急須と聞香杯、茶杯でいただくのですが熱容量が小さいので器を温めずにすむエコさが目的の専用品です。
上質の茶を用いることで灰汁を流す必要もないですが上質なのでそれなりに値段です。
一方で正しい中国茶の作法で楽しめば高いものではない、というのも沈氏の教えです。

茶葉は1g、湯は熱湯が決まりです。
聞香杯に注いで香りを移し、茶杯に茶を移すと聞香杯に鼻を当てて香りを楽しみますが「もっと長く、もっと深く」情報を取っていきます。
その後に茶杯の茶を楽しみます。
同じ急須の茶葉で五煎ほど話をしながらいただきました。
出国の都合であまり時間が取れなかったので日本人におなじみの凍頂を買って辞したのですが、台湾ドルの手持ちがなかったので日本円から取ってもらうことにしたのが移動中にレート換算を間違ったことに気づいて慌てて取って返しています。

この後から新型コロナが大流行し台湾にも渡航できなくなりました。

奇古堂が扱うお茶はずいぶん早くから多層フィルムの筒に入っており、ジッパーで空気を遮断することで長く品質を保てるようになっています。
中国茶は収穫期が春と冬で好みが出るので記載に配慮があります。

旧来の往復が可能になった2023年の春節明け2月に台湾での仕事があり、帰路に奇古堂をお使いで訪ねています。
前回同様に訪ねたのですがコロナの影響で本来は午後開店のところを急遽開けてもらいました。
トレッキングポール2本で歩かれるのでちょっと遅れたとのこと。
それでもいつものように元気で前回同様に茶の接待を受け、茶の話や近況を楽しみました。
金萱茶(ジンシュァンチャ)や四季春茶(スージィチュンチャ)がないか聞くと研究する時間がないとのことです。
奇古堂で扱うお茶は品種、畑、栽培、製造を通してECOで体に良くておいしいものを追うので奇古堂の扱い茶葉は厳選されたものになってしまいます。
直行便が再開したら沖縄に行きたいと言っておられました。
本州にも待っている人が多いのに何ゆえに沖縄かと思ったら、寒いのが嫌らしいです。

手に入れにくかった茶葉を買うと遠来の礼に紅玉紅茶をいただきました。
帰国後に封を切ったこの紅茶がおいしかったです。

2024年も台湾の仕事がありその準備の途中で沈氏の訃報を知りました。
ネットで調べると8月に奇古堂を訪ねて沈氏に会った人のブログがあったので急逝だったようです。
中国茶芸術協会も前会長として訃報を伝えています。
日本でも活動が長く教え子も多いそうです。
袖触れ合うも他生の縁ですが冥福をお祈りして祈念のためにここに記します。

奇古堂自体も福華大飯店が2024年9月から改装なのでその先はわかりません。

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