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アルゼンチンタンゴのデンソ

二女が昨年タンゴを習い始めて、送り迎えのために待ってるのも退屈だし、家から出られないし、練習相手になれるかもしれないし、とりあえずアルゼンチンにかぶれようではないかと夫婦で便乗して習い始めたのが4月。かれこれ半年経つのだけど、毎週タンゴの奥深さを知りつつ、夫婦で一緒にやることの面白さを感じています。

先生のペペは建築士だけど40歳すぎてからタンゴを始め、20過ぎの娘はダンサー、3歳の息子を持つシングルというこれまた奥深いブエノスアイレス人。ステップの種類や技術を教えるより、ブエノスアイレスの歴史や音楽としてのタンゴについてしゃべって、大きな文化としてのタンゴに触れながら螺旋に巻き込んでいくような時間です。

タンゴショーなどで振付が決まっている場合もありますが、基本的にはサルサと同様アドリブで、リードする男性とフォローする女性がかみ合わないと踊れません。

「さあこのステップを練習しよう」と始めるとき以外は、「何をしようか」「何が来るか」と常に無言のやりとりしているわけです。だからと言って音楽をないがしろにしてしまうと真剣白刃取りみたいなことになってタンゴにはなりません。さらに音楽と言っても、タンゴの場合はリズムにあわせることもあれば、メロディに委ねたり、そうかと思えば雰囲気でゆっくり間をとることもしょっちゅうです。1・2・3・4というカウントはできません。

リードする人は、上半身や腕で相手がわかるようにきっかけを作ったり、音楽に乗りながら相手の重心がどこにあるか、そして変化させて次のステップに繋げなければならず、とても難しい役割です。夫は頭で考えたり作戦を立てるのが好きなので、自由に音楽にあわせてセンスで踊るダンスより楽しいらしい。すごいなあ。

ペペは毎週のように「実際の夫婦のように男性がリード、女性がフォローなんだよ(にやり)。こんなことを言うとフェミニストに怒られるけれど、はっはっは」と笑ってますが、同時に「たまにはリードとフォローを入れ替えることでお互いの理解が深まる」なんて、へぇボタンを押したくなるようなことも言ったり。
そしてしょっちゅう「アキの動きは軽すぎてエスカパール(逃げる)してるからもっとしっかりつかまえなさい」と夫に言ってて、本当に夫婦の関係に似ているものだと顔を見合わせちゃったり。

昨日は「もっとデンソでなくてはいけない」
denso, densidad ぎゅっと重い感じ。密度のある感じ。地面に足が吸い付きながら動く感じ。
「バレエは全身が上から引っ張られているとしたら、タンゴは上半身は上に、下半身は床に沈むように」

夫婦ともにせっかちなので、自転車の車輪を回しているように踊りがちです。気が合うのでふたりでは続いているのだけど、「もっとゆっくり、3倍ゆっくり、静止もタンゴのうち」と注意されます。
さらに、「最終的なマエストロは私じゃない、音楽だ」って。かっちょいいー。

昨日はとにかく「denso denso denso」と言われ続けたので、途中から私の頭の中ではメキシコのバンドMolotovの「dance and dense denso」

https://www.youtube.com/watch?v=PLQP7iu76F0

が流れ始めてしまってすっかり上の空。普段だったらペペのリードが上手なので、コントロールされて体を乗せていればどこまでもついていける気がするのに、挙動不審で呆れられました。

先週は屋外ミロンガ(タンゴ踊り場)に初参戦したのだけど、声をかけてくれた老紳士が、さっきまでくるくると踊っていたのに、私を相手に一歩一歩踏む(歩く)だけで2曲つきあってくれて、タンゲイロにはすべてお見通しなのだなあと感じました。

普段は見つめあって踊らないけど、その老紳士はじっと見つめてくる人だったので、しわしわの奥のグレーの目が目玉の大きさより深そうだなあと見つめ返していたら、どんな人生を送って今ここに来たのかと考え始めてしまい、ミロンガで人生や視線や歩みを交差させることのあはれをしみじみと知りました。

デンソ。

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