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第107回: ユーザビリティテストの設計

≡ はじめに

今回は、Twitterでのリクエストにお応えして「ASTERセミナー標準テキスト」にはない話です。しいて言えば、134ページの以下の箇所です。

使いやすさ(ユーザビリティ、UX、ユニバーサルデザイン、感性(爽快等))も大切である。


前回は、「リグレッションテストの設計」について書きました。次回は「ホワイトボックステスト」について書きます。カバレッジとかの話です。

今回の「ユーザビリティテスト」は、自分がしているテストについて書きます。専門的な話は、こちらや、そのスライドで紹介されている樽本さんの本を読むことをお勧めします。

ユーザビリティテストを行う前に湯本さんがツイートされていたこちらの記事で、良いユーザーインターフェース設計の原則について頭に叩き込んでおく必要があります。
本当は、原則(知識)ではなく、このような原則を満たしている商品を普段から使っている(経験を重ねている)ことが良い評価につながります。

例えば、

   ▢ 内容を確認しました。

というチェックボックスがあり、テストしたら▢の中をクリックしないと✔(チェック)が入らないUIだったとします。
もしも、このときに、「内容を確認しました。」という文字列をクリックしてもチェックが入るUIの存在を知らなければ、▢の中をチェックすることが使いにくいという問題に気が付くことすら困難です。

なお、キャッチイメージは今っぽいUXかなと思って選びました。


≡ 私がしているユーザビリティテスト

使用性を確認するのがユーザビリティテストだと思っています。SQuaRE(ISO 25010)の品質モデル(製品品質)には、(主)特性に「使用性」があり、その副特性に「適切度視認性」、「習得性」、「運用操作性」、「ユーザエラー防止性」、「ユーザI/F快美性」、「アクセシビリティ」の6つがあります。(副特性6つは一番多いです)
こちらを展開する形で、テストタイプを作るのも良いと思うのですが、ちょっとピンとこない副特性があるので、私はそうしていません。

私がしているユーザビリティテストでは次の5つの観点でテストしています。

1. 利用者が目的を達成すること
2. 目的を達成するまでの時間と操作数(試行錯誤数)
3. 利用者の感情(主観)
4. 親切(ユーザーフレンドリー)か
5. 互換性

1, 2, 3は上にリンクした相沢直人さんの資料の26ページと同じことだと思います。(ちょっと安心しました)

4と5は自分が痛い目をみたので、しているテストです。

以下で、順番に説明します。


■ 利用者が目的を達成すること
■ 目的を達成するまでの時間と操作数(試行錯誤数)


たとえば、複合機と、その複合機のマニュアルと指示書を置いた部屋に被験者をいれて、「指示書に書いたことを行って終わったら結果を持ってきてください」と指示するテストです。指示書には「マニュアルの30ページから50ページを両面、カラーでコピーし、ホチキス止めをしたものを5部作ってください」といったことが書いてあります。
実施している様子は録音・録画し、どういう手順で実施したか、どこに時間が掛かったか、時間や操作数などを評価します。

被験者については、初めて複合機を使う高校生といった人を選びます。


■ 利用者の感情(主観)

上の実験が終わったあとに、どう思ったか、素直な感情を聞きます。場合によっては、「複合機の機能にホチキス止めがあったんです」といった種明かし的な話もしながら、感情の動きを観察します。傾聴の姿勢で相手の言うことを一切否定せずに聴くことに徹します


■ 親切(ユーザーフレンドリー)か

究極のUIは詳しい人が隣にいて教えてくれることです。税務署で確定申告の用紙を作ると専門知識を持った人が隣に座って、親切にパソコンの操作を教えてくれますが、あれが理想です。
「友達は操作を誘導してくれるし、間違えたら優しく助けてくれる。」が実現できているのか、要求仕様のレビュー時に確認しています。


■ 互換性

「使用性を確認するのがユーザビリティテストだと思っています」と書きました。SQuaREの品質特性では、「使用性」と「互換性」はいずれも主特性です。ということで分けて評価する人もいるのですが、私は「使用性」と「互換性」は関係深いと思っています。

あるソフトウェアやサービスを使っていたときに、そのGUIが変わったら「使いにくくなった」と感じると思います。しばらくすると、「なるほど。新しいGUIの方が良いなあ」と思うことも多々ありますが、変わった直後は、これまでの習慣に引かれて操作ミスが増えてイライラします。

もっと良いUIが思いついても、あえて使用性のために互換性を保つ判断もありです。新規ユーザーが増える場合は互換性を犠牲にする判断もありです。


≡ 終わりに

今回はユーザビリティテストの設計について書きました。

一時期UXとかHCDとか流行りましたが今はどうなんでしょう? もう当たり前の世界になってしまったのかもしれません。UXは、テストよりも設計で頑張るしかないように思います。

また、今回『A/Bテスト』について書きませんでした。気になる人は左記のリンクをクリックして読んでください。書かなかった理由は私自身の実施経験が少ないこともあるのですが、『A/Bテスト』が嫌いだからです。
「大勢が良いって言ったらいいのかよ」、「大勢って誰だよ。ターゲットに合っているのかよ」と思います。知の限りを尽くして、それでも決まらなかったときのみ多数決しろよーって。ええ、個人的意見ですが。

『ABテスト』じゃなくて、『AIテスト』ができないかなあ? 世界中のGUIをパターン分析して使いやすい点や使いにくい点をAIが指摘してくれるの。そんなに作るの難しくないと思うのだけれど。

最後になってしまいましたがユーザビリティテストで絶対に忘れてはならないのは、「ユニバーサルデザイン」です。ソフトウェアの画面では、色覚多様性 (色弱/色盲/色覚異常)への配慮が有名です。それもそうなのですが、“誰にとっても使いやすい”ということを目指す活動だと思っています。

例えばシャンプーとリンスとボディソープのボトルについて、目をつむっていても区別がつくってご存知でした? 知らなかった人はググってみよう!

誰にでもという点で、大昔の話になりますが、mohtaさんがfjで、「文字の国際化は、A-Zのみを使うことだ」(意訳)と書いていたのがずっと気になっています。パスポートの名前や、空港の発着案内板が何故A-Zなのか。ハッとさせられました。

と、話題が尽きないユーザビリティですが、このくらいにして、次回は、「ホワイトボックステスト」についてです。制御フローパステストのカバレッジについて書きたいと思っています。

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