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空き家の会オフ会in京都~中編~

こんにちは。空き家買取専科 子育て広報の三輪です。先週に引き続き、「空き家の会」のオフ会で、京都での空き家活用の事例を見学に行った続きのレポをしていきますね。
今度の訪問地は、前編の「霧霧(キリム)」プロジェクトから程近い、「A HAMRET(ハムレット)」というむらづくりプロジェクトです。


川端寛之さんについて

ここで、今回の京都オフ会での事例紹介で案内してくださっている、川端寛之さんについてご紹介します。

川端さんは、京都に昔からある不動産のイメージにとらわれない物件情報を発信するサイト『KAWABATA channel』の運営、賃貸や売買の仲介、マンションやビル、集落などの不動産活用やリノベーションの企画を行う"京都一(イチ)ファンキーな不動産屋さん"です。
これまでにも様々な集落再生プロジェクトを手掛けており、その経験を生かして今回の「A HAMLET」も立ち上げています。その目的は、住・職・楽を兼ね備えた生活の新しい選択肢を提供し、人々に多様な生き方を提案することにあります。プロジェクトは設計者、施工者、アーティスト、クリエイター、そして地域住民が一体となり、新旧が交差する豊かなコミュニティを形成しています。

私は、「京都一(イチ)ファンキーな不動産屋です」って自分で言ってすごいな。何がどれだけファンキーなんだろう?というのが最初の印象でした。しかし、案内する中で、回りの人を明るくする陽気さや、機転がきく面白しろさ、人やまちをとても大切にする想い、普通では行かない方向に行き、熱く語る姿に、「京都一ファンキー」だと自負することに納得しました。

『KAWABATA channel』についてはこちら

「A HAMRET(ハムレット)」プロジェクト

亀岡市大井町並河エリア

線路を渡り見えてきたのは、築年数の古い長屋のような平家が立ち並ぶエリアでした。ここだけ、昭和の時代の下町にタイムスリップしてきたかのような、雰囲気が漂っていました。

このエリアはその昔、瓦の土がよく取れる場所で、瓦がたくさん作られていたそうです。今回案内してもらった住宅エリアの家主さんの家の前にも、大量の古い瓦の山と、できたばかりの綺麗な瓦が並んでいました。

実は、この日の集合場所に到着する前に、私はこの場所を通過していました。でも、何も意識しなければ、この場所にどんなストーリーがあるのかなんて全く知らずに通り過ぎ、気にも留めていませんでした。少し、意識が変わるだけで、こんなにも目に入ってくる景色が変わるんだと驚きました。

A HAMRET(ハムレット)の始まり

今回、川端さんが案内してくれたのは、前回の霧霧(キリム)プロジェクトから程近い、亀岡市大井町並河にある「A HAMRET(ハムレット)」というプロジェクト。
シャイクスピア原作の舞台「ハムレット」から言葉自体は聞き馴染みはありましたが、意味は全く知りませんでした。このまちの「A HAMLET」とは、ただの「とある集落」という意味合いでつけたそうです。

このプロジェクトは、2020年10月に川端さんが偶然この集落を通りかかったときに、この場所と出会い、家主さんの家のチャイムを押したところから全てが始まったそうです。約30軒の平屋が立ち並び、昔ながらの集落はすっかり時代の流れに置いていかれたような雰囲気で、当時は約30軒の平屋のうち、13軒が空き家になっていたそうです。

一部修理されている物件もあったそうですが、できるだけ、手がかからないようにと、建物の外壁にはメンテナンスフリーの素材を上貼りして、内装には、安価だからと、クロスやフェイクのフローリングを貼る。まちにある木や植栽などの緑は管理が大変だからと伐採。舗装していない地面は水が溜まったり、使い勝手が悪いからとコンクリートを打ってあったそうです。

「A HAMRET(ハムレット)」プロジェクトのメンバー集め

川端さんは家主さんにプロジェクトについて理解してもらうべく、この集落の価値を伝え、どうしたらいいのかの方向性を説明し、また川端さん自身が何者で、これまでどんな集落再生プロジェクトや施設のリノベーション、施設開発をして来たのか、実際に現場を見てもらいながら賛同をもらったそうです。

同時に、A HAMRETプロジェクトに関わりたいメンバーひとりひとりに声をかけ、時間を掛けて口説いていき、その結果、家主さんを含むみんなが面白そうだと乗っかってくれスタートしました。収支計画を整え、紆余曲折や様々な協力による化学反応が起きながら、まちやむら、集落の再構築、再定義をするプロジェクトを始めていったそうです。

そして13軒ある空き家のリノベーションに順番に取り掛かかり、今では、設計や施工を手掛けるメンバーに加え、アーティストやクリエイター、近隣の住民、サポーターが日夜集まり、半公共的な敷地の中で混ざり合う不思議な場所へと生まれ変わりつつあります。
目指しているのは、人生にかかせない、住・職・楽のための新しい選択肢をつくること。そして、生き方の選択肢を増やしていくことです。

川端さんの想い

川端さんがそんな場所にしていきたいと思ったきっかけは、50年前のこの場所で撮った一枚の写真にありました。当時は、庭の緑の中に家族の生活がありました。

「どこのまちも同じ顔にされてしまう現代では、少なくなりつつある今のこのまちの美しい風景を残す事だけでなく、また今の風景に未来への想いを込めるのでもなく、50年前と未来を掛け合わせたような世界観を描けないだろうか?」と川端さんは思ったそうです。

2022年2月「A HAMRET(ハムレット)」スタート

「A HAMRET(ハムレット)」は、まちやむら、集落の再構築、再定義をするプロジェクトです。 簡単に言うと、むらづくり。 
生き物としての人間の巣であり、現役だけど廃墟寄りの建物があるこの集落を、50年前のまちの空気に近づける(=まちが過ごして来た、この50年を知る事にも繋がる)、土地自体を少し自然に返す、ひと、緑、まち、建物は手がかかるという前提に立ち返ることを意識して、取り組んでいるとのことです。

庭の再生

50年前の写真では草木が生えていた庭でしたが、プロジェクト前には、草木の手入れの手間や利便性を重視し、一面コンクリートで覆われていました。プロジェクトが始まり、コンクリートを剥がし、剥がしたコンクリートを積み重ね、ベンチにしたり、焚き火台を作り、人が集う場所へと生まれ変わっていました。

プロジェクトメンバーの強い絆

川端さんをはじめとするプロジェクトチームが泊まり込み、この地に根を下ろしながら生み出した創造物には、彼らの情熱が生々しく宿っていました。昼夜を問わずにこの地と対話し、地元の人々やプロジェクトを支持する人々と手を取り合って築き上げた作品からは、一つ一つの石、木材、そして植物が語りかけてくるようでした。共に汗を流し、時には笑い、また時には課題に立ち向かいながら形成された強い絆が見えてきました。それは訪れる人々にも明らかで、ここにはただの建築物以上のものがあり、それは川端さんたちの集いと共感に満ちたコミュニティが育んだ温もりと活力を放っているようでした。

人と自然が調和する家

この作品は、生きた木が室内に植えられ、家の中に緑が侵食しています。土間に根をはり、地中から水分を吸い、天井から太陽の光が差し込み、半透明のトタン(ポリカーボネイドの波板)の壁が、外と中を完全に分断することなく、人の気配を感じ繋がっているようでした。人と自然が調和し、精神的な豊かさを育む空間となっていました。

一部の瓦をおろし、半透明のトタン(ポリカーボネイドの波板)に置き換えることで、自然と時の流れを感じることができる明るい室内になっています。自然光が室内に満ち、古い建築に新しい命を吹き込んでいます。日中は電気を点けなくても明るく、エネルギー効率の良さと居心地の良い明るさが、再生された家々の居住性を高めています。また、屋根が軽くなるため、地震の影響も少なくすることができるそう。でも、夏は暑く、冬は寒いそうです。自然との共生ですね。

自然を感じる土間

土間は、三和土(たたき)といいます。
解体した土壁の土を再度細かくして、粘土と真砂土と石灰を、ひたすら運んで混ぜて、混ぜたモノを室内に運んで、整えて、踏んで、叩いて、固めたそう。

この土間に足を踏み入れた瞬間、時間がゆっくりと流れるような静けさと、地に根ざした暮らしの温かさが心に染み入りました。土の柔らかさや、これからまだ変化していく自然の質感が感じられ、それが訪れる人々に安らぎを与えているようでした。
土間作りの際は、作り手たちが踊り裸足で土を踏み固めることが、儀式のようであり、自然とのつながりを感じる瞬間だったのではないかと思いを馳せていました。

この土間は、新しいもので作ることに執着せず、既存の資源を最大限に活かし、循環できること、集落の歴史と地域の素材を尊重し、環境に優しい持続可能性も大いに体感することができました。

また家主さんが、リフォームした手入れの手間のかからない外壁は、戒めのためにそのまま使用しているとか。

A HAMLETプロジェクトを見学してみての感想

コミュニティの形成と再生

このプロジェクトを見学して、最も印象に残ったのは、過去と未来、自然と人工物が調和するその場所の独特な雰囲気でした。空き家だった建物が、丁寧に手を加えられ、新しい命を吹き込まれる様子は、まるで時が逆行するかのよう。それぞれの建物には、新旧の物語が溶け合い、新たなコミュニティの核としての役割を担っていることを実感しました。

プロジェクトメンバーの熱意と専門性の高さが随所に表れており、地域の伝統と現代の生活様式が融合する、新しい生き方の提案には思わず共感せざるを得ませんでした。地元の住民と訪れる人々が自然に交流する様子は、このプロジェクトが単なるリノベーション以上のもの、すなわちコミュニティの再生を目指していることを物語っていました。

緑地の再生

また、計画的に再生された緑地は、現代では忘れがちな自然の息吹を感じさせ、人々が集える場所として、心地良い空間を生み出していました。
再生され使われた資材や、建築と自然が一体となるデザインは、その地域固有の文化を尊重しつつも、新たな価値を創造していることを強く感じさせました。手間がかかることで、コンクリートに覆われがちな現代のまちづくりでは作れない温かなコミュニティがそこに生まれていました。

生き物のように変わり続けるであろう集落

「A HAMLET」プロジェクトは、ハード(建物)だけでなく、ソフトな人間らしい、時には泥臭いコニュニケーションがあって、持続可能で人間味あふれる生活空間の再創出を目指しています。未来への希望と過去への敬意が交差する、まさに生きた美術品のような場所です。

プロジェクトの持続可能性だけでなく、住民自らが変化を主導する力となっていき、集落は住民の手によって育まれ、彼らの意志と活力で満ちていきますね。
川端さんが目指す、生き物としての人間が暮らし、生き物のように変わり続けるであろう集落。
そんな集落を一緒に作っていく仲間が増え、今後この集落がどのように成長していくのか、またぜひ訪れて見たいなと思いました。

後編は、電車を乗り継ぎ、京都市内のちょっと不思議な融合をした建物へ向かいます。後編もお楽しみに!

前編はこちら