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エクセルギーという価値観

本日お話したい内容はエクセルギー。
何それ?という方も多いかと思います。分類でいうとエネルギー関係のお話です。私も今勉強中なので、高度な話ができるわけでありませんが、初めての人にもわかりやすくまとめられたらと思います。理解できるととても面白いのでオススメです。

エクセルギーとは何なのか?

そもそもエクセルギーとは一体何なのか?
それは「我々が有効に使えるエネルギー」を指します。エネルギーを有効に使えるか使えないかで分類した時、「有効に利用できる方」と理解してもらえればと思います。

■エネルギー保存の法則

それでは、有効に使えるとは一体どういうことなのか?

例えば位置エネルギーで考えてみます。位置エネルギーとは物体がもつ高さの分のエネルギー量です。例えば30階の高層ビルの屋上からテニスボールを落としたら、地面に着く頃にはものすごいスピードになります。もし当たったら怪我するくらい莫大なエネルギーです。

それはテニスボールが持つ位置エネルギーが、速さ分の運動エネルギーに変わったということです。厳密にはこの落下する時の空気抵抗などの損失によりエネルギー量は減少していくのですが、エネルギーは保存されますので、抵抗がないと仮定すると、位置エネルギーが0になりすべて運動エネルギーに変わったと言えることができます。
この話は力学を勉強した人でなくても、ふむふむとイメージはできるかなと思います。

■エネルギーの基準

ただ、先ほど私は位置エネルギーは地面についたことで0となったと申し上げましたが、果たしてそれは本当でしょうか?

位置エネルギーは高さの分のエネルギー量でした。そこで生まれてくる疑問は「基準はどこですか?」ということ。

私たちの住む街中で地面の高さ0mというところはほぼありません。この場合、絶対的な基準としては海抜0mと置くことが全世界共通の基準として正しいでしょう。

そうすると、先程のエネルギー保存則を説明すると、そもそもテニスボールは「30階ビルと海抜から地面の合計の高さ」の位置エネルギーを持っていたが、地面に落とすことで位置エネルギーが「海抜から地面の高さ」まで減少し、ビルの高さ分の位置エネルギー分、運動エネルギーを得た。という説明になります。

正直めんどくさいので、地面の高さを相対的な基準としようよ、そこの基準からのエネルギーの変化を見ようよという相対的な基準の考え方が生まれます。

この話でいうと、ビルの高さ分の位置エネルギーを有効な量、海抜から地面までの高さ分の位置エネルギーはこの話では使えることができないので、無効な量と区分できます。こうしたその時々の相対的な基準により分けた時に、有効なエネルギーをエクセルギーと呼びます。

[まとめの式]
全エネルギー = エクセルギー + 無効エネルギー

我々の生活に存在するエネルギー

我々の生活の周りには、様々なエネルギーが存在します。

照明やコンセントなどの電気エネルギー、給湯器などの熱エネルギーがあります。他にも石油、ガスが燃焼によって熱エネルギーを生み出すのは、元々化石燃料が持っていた化学エネルギーです。自然エネルギーとしての太陽光エネルギーや水素エネルギーなんかもありますね。

それらのエネルギーにそれぞれエクセルギー(有効エネルギー)がどれくらい占めているか考えたことがありますか?
(あるわけねえだろというツッコミが聞こえそうです笑)

■エネルギーごとのエクセルギー率

エネルギーの中に占めるエクセルギーの割合をエクセルギー率とします。そうすると、エネルギーの種類によってエクセルギー率は大きく違うことがわかっています。
代表的なものは下記の通りです。

<代表的なエクセルギー率>
 電気エネルギー 1.0
 化学エネルギー 0.95
 太陽光エネルギー 0.9
 水素エネルギー 0.85
 熱エネルギー 0.1(100℃)温度によって変化

ここで注目してほしいのは、電気エネルギーは全て有効エネルギーであるということ、熱エネルギーの驚くべきエクセルギー率の低さです。

熱エネルギーは温度が上昇すればするほど、エクセルギー率は上昇します。ただし、1500℃程度まで上昇しても0.6程度とその他のエネルギーに比べて圧倒的に低く、我々が普段使用する温度帯(100℃以下)ではほとんど価値がないと言えるでしょう。

熱に変換すること=無効エネルギーを増やすこと

ここで熱力学第2法則が登場します。熱力学第2法則とは、以下のとおりです。

熱は自分自身では低温物体から高温物体に移動できない。
外部に変化を残さず、熱源の熱を機械的に仕事に変えられない。

ポイントは1点目。
熱は低温から高温へ自然に行くことはないということ。これは感覚的にわかりますよね。温度の低い氷の中に熱湯を注ぐと、ぬるいお湯になります。

外気温という相対的な基準をとるのであれば、基準から温度差があった両者が、外気温に近づいた。つまり、エクセルギーが徐々になくなっていったと言い換えられます。

この場合熱湯は氷に入れることで無効に進むスピードが早まりましたが、放置しておけば次第に無効になることには変わりません。以上のことから、熱エネルギーというのは、エクセルギーが徐々になくなり、無効エネルギーが増える方向に行くと言うことです。
※専門的には「エントロピー増大の法則」なんて言ったりしますが、ここでは専門用語はできる限り割愛します。

エネルギーを評価するものさし

エネルギーを効率よく使用することは、企業レベルでも家庭レベルでも非常に重要性が高まりつつあります。パリ協定やSDGsなどの動きもあり、省エネ、特に省CO2対する意識は今の時代において非常に重要です。

その時に、エネルギー量がどれだけ削減できたのかということを定量的に量るため、種々のエネルギーを統一した価値観、ものさしが必要となってきます。

家庭では電気代、ガス代といった消費者に寄り添ったお金という価値観で考えると思います。
例えばオール電化住宅に住むことによって省エネになったかを見るとすれば、今までの電気代とガス代の合計金額と、引っ越し後の電気代を比べて減っていればなんとなく省エネになったのかと実感が湧きます。
しかし、電気代はオール電化用の割安なプランがあったり、料金単価が変わったり燃料費調整額などが変動したり、正確にエネルギー量の変化を見ることはできません。

そこで今使われている基準が、CO2排出量であったり、1次エネルギー量というものです。これは、電気使用量やガス使用量に係数をかけることで、統一の価値観を生み出しています

■エクセルギー基準という新しい価値観

従来使用されている価値観は全て「エネルギー」すなわち「エクセルギー」と「無効エネルギー」の総和で比較しています。

ただ、ここでお話している通り、それは省エネルギーを正しく評価していると言って良いのでしょうか?

電気エネルギーと熱エネルギーでは自然界で使える有効エネルギーの割合が大きく違うのに、です。
エネルギー基準では効率的だけど、エクセルギー基準では違うよねみたいな話を一つご紹介します。

■コンバインドサイクル発電 vs コージェネレーション

コンバインドサイクル発電というのは、比較的新しい火力発電システムです。
コージェネレーションシステムというのは、家庭用でも存在する省エネ機器です。

どちらも天然ガスなどの化学エネルギーを燃焼により1500℃程度の熱エネルギーを得ます。
熱エネルギーを蒸気などで運動エネルギーに変え、タービンを回し発電し電気エネルギーを得ることまでは同じです。

その熱エネルギーの残り分はまだ500℃以上あり高温なので、再利用することでエネルギー効率を上げます。
その時、コンバインドサイクル発電がさらに別のタービンを回し発電します。コージェネは家庭用の給湯として再利用します。

言い換えれば、コンバインドサイクル発電は、熱エネルギーを使えなくなるまで価値の高い電気エネルギーとして搾り取っているのに対し、コージェネはほぼ価値のない70℃程度の熱エネルギーに変換している。しかも500℃のポテンシャルを持っていたのに関わらず、結構無駄にし70℃程度の給湯として利用しています。

この時両者を比べる時、よく使われているのが「エネルギー基準」の考え方です。

コンバインドサイクル発電は、2段階の発電を合わせても50%程度に対し、コージェネは発電20%、熱利用60%で計80%の効率を有することからコージェネの方が省エネです!

みたいな謳い文句がよく聞かれます。

一方、本日勉強したエクセルギー基準で考えてみましょう。
燃料のもつ化学エネルギー量を100MJとして考えましょう。すると、エクセルギー率は化学エネルギーで0.95だったので、エクセルギーは95MJとなります。

<燃料(化学エネルギー)>
エネルギー 100MJ
エクセルギー95MJ

それでは、それぞれ見ていきましょう。

■コンバインドサイクル発電
(化学エネルギー→電気エネルギー)
 エネルギー 50MJ
 エクセルギー50MJ
 ※エクセルギー率 電気1.0とする。
 
   よって、
 エネルギー率 50%
 エクセルギー率 53%

■コージェネ
(化学エネルギー→電気、熱エネルギー)
 電気エネルギー 20MJ
 電気エクセルギー20MJ
 熱エネルギー 60MJ
 熱エクセルギー6MJ
 ※エクセルギー率 電気1.0 熱0.1とする。
 
   よって、
 エネルギー効率 20%+60%=80%
 エクセルギー効率 20%+6%=26%

 
エネルギーをその中に含まれる有効分で見た(エクセルギー基準)時、見事に逆転しましたね!
補足するなら、熱は本来100℃でもエクセルギー率0.1くらいなので、70℃程度だと更に少なくなりそうです。

本結果より、今までエネルギー基準で考えていた時はコージェネの方が効率的と思っていたけど、果たして本当にそうなのか??という視点が生まれます。

最後に

いかがでしたでしょうか。「エクセルギー」という新たな価値観により今までの常識が信じ難くなったと思います。
個人的にはどっちが合っていてどっちが間違っているとかいうつもりはありません。
ただ、エネルギーに関わらず、量だけでなく、それぞれが持つ質で考えるって非常に重要なことですよね。

投資の世界で言えば、このビジネスはどの程度の確率でリターンがあるかだけでなく、リターンの大きさも含めて期待値で評価すると思います。
新卒採用で言えば、100人の目標が達成されれば良いのではなく、ある程度質の良い学生を取ることも大切な要素です。

長い文章読んでいただきありがとうございました。なるべく平易に簡素化して書いたため、言葉足らずや誤った表現があるかも知れませんが、ご容赦ください。
私はエネルギー分野を勉強中でもっともっと知識を深めていきたいと思っています。
皆さんの中にエクセルギーに興味を持つ第1歩として活用していただき、仲間が増えればなお幸いです。

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