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余情

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小説。 あなたに一目会うために十年を繰り返すわたしのお話し。
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2022年7月の記事一覧

余情 37〈小説〉

 後輩と会わないまま、私は二回生に上がった。それは大した感慨も湧かなない春の訪れだった。…

とし総子
1年前
2

余情 36〈小説〉

 家に帰り着いた私は、母に適当なことを言って部屋に引っ込んだ。部屋のドアを開けると、昼間…

とし総子
1年前
4

余情 35〈小説〉

 向かい合った後輩は、少し赤い顔をしていた。熱でもあるのかと聞くと、急いで来たからだと口…

とし総子
1年前
4

余情 34〈小説〉

 夏休みに入ってからは、一日の大半をバイトに費やすことも増えた。  その代わりに、後輩と…

とし総子
1年前
3

余情 33〈小説〉

 児童書の一帯を整えていると、学生の塊が店の前を通っていくのが見えた。  その大きな流れ…

とし総子
2年前
5

余情 32〈小説〉

 卒業式の日は、小雨の降る寒い日だった。  後輩の顔を式の途中に見つけたが、その目は恐ろ…

とし総子
2年前
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余情 31〈小説〉

 「それで」と促されたとき、私は何を聞かれたのか、分からなかった。  目の前の級友の目が笑っていないのを見つめて、その言葉をもう一度噛み締めてみる。それでも頭に答えが浮かばなかった私は、困ったように彼女を見返した。 「後輩ちゃんのこと、どうするのよって話」  業を煮やした級友の言葉に、私は「ああ」と気の抜けた返事を返した。  彼女は卒業式を待たず、日本各地への旅を実行に移すという。それが明日だということを、私は聞いたばかりだった。そこへたった三文字を告げただけで答えを導けとい