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色彩の歌/飯島章友

食卓の茄子なすの漬物むらさきに朝々晴れて百舌鳥もずのなく声
太田水穂『鷺鵜』

一点に凝らむと据ゑしわがまみりょく氾濫のすでに濃き野よ
葛原妙子『橙黄』

唇にかすかに紅の色残る古き弥勒は異国の青年
楠誓英『青昏抄』
 
一首目は色と音とのモンタージュ。水穂は芭蕉俳諧の研究家だったが、この歌は芭蕉の「海暮れて鴨の声ほのかに白し」に通じる手法とも。二首目、当初この四句目は「緑の氾濫の」としていたが、師の太田水穂に添削を請うた結果「緑氾濫」になったという。これによって一気に言葉が締まり、生命力が漲る措辞へと高められた。三首目は「かすかに」「古き」「異国の」といった弥勒が併せ持つ距離感のその分だけ、歴史的ロマンや耽美的気色が自ずとにじみ出ている。

初出 『うた新聞』2014年11月号 特集「色彩の歌」