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五七五よりも短い句

小池正博さんが編集発行の「川柳サイド」第2号(2017年)という作品集に、「おにぎりの定型」30句で参加したときのことです。その中で私は、通常の575形式にくわえ、それよりも短い音数と長い音数の形式を入れることに挑戦しました。
今日は575よりも短い形式のほうについてお話ししますね。私が試みたいちばん短い形式は3・4でした。何はともあれ、そのときの句をすこし引いてみましょう。

ネコか涅槃か
きっとずっとニート
わかものの引力離れ
酢からジャイアン・リサイタル

1句目は3・4。こうして出来上がったものをみると、何てことないように見えるでしょう。でも、いろいろと試した形式の中では、これがいちばん難しかったのを覚えています。何と言っても、上の3音には助詞をつけないと下に繋げられないので、実質2音の言葉を探さなければいけなかったわけです。短い音数の言葉は限られてきます。なので、作品に使える言葉を見つけるためにそれはそれは苦労したものです。
没にして入れなかったものに「モフがだだ漏れ」「武士の糖分」などがありました。いまの感覚から見ればけっして悪くはないのですが、当時これでは心許なく思ったんでしょうね、結局、頭韻や脚韻を意識した1句目を収録した次第です。

2句目は3・3・3。尾崎放哉の有名な「咳をしても一人」は6・3のリズムに取れますが、3・3・3とも取れます。だから3・3・3は、きっと共感につながるリズムを備えているはずです。ここでも私は脚韻を用いつつ、意識的に広告コピー風の文体に仕上げています。

3句目と4句目は5・7と7・5です。ただし4句目は、3・4・5というリズムを内包しています。このへんは現在なら、西沢葉火さんが作っていらっしゃる〈ジュニーク〉ということになるかと思います。
作句当時のことを振り返ると、この形式・音数になって俄かに作りやすくなったのを覚えています。3句目はいろいろな方から面白いと言っていただけたので、句集『成長痛の月』(素粒社)に収録することにしました。でも、この句も若者の〜離れという常套句を利用していますね。当時の私は、音数が少なくなるにつれ、共感性を得るために常套句や韻を意識していたようです。それだけ、575よりも音数が少ない形式は難しかった、ということでしょうね。

この試みを経て実感したことがあります。一つは、575の定型が歴史的に継続してきた背景には、リズム的に作句しやすかったり、言葉を当てはめやすかったりといった、それなりの理由があるということ。もう一つは、12音の句がそうだったように、575より音数の少ない形式にも大いに開拓の余地がある、ということ。みなさんも一度試してみてはいかがですか?