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大切なものを探しに(後編)

日本から移籍したテビタ・タタフが出場するのであれば、是非とも撮影したい。

UBB(Union Bordeaux Bègles)へメッセージを送ってから1日、2日、3日…、何も返信がなかった。ダメ元で送ったメール、無理の場合も考えてゴール裏のチケットを10€で購入して連絡を待った。

10月13日(金) 13:54 
Tevita Tatafu will be starting the match. Despite the late start, we look forward to welcoming you to the Stade Chaban Delmas this evening for the UBB-Racing 92 practice match. Media access to the stadium will be at the entrance〜

UBBのメディアマネージャーからメールが届いた。「撮影できる!」。高ぶる気持ちを抑えて感謝の返信を送り、撮影機材を準備した。キックオフは20:00、取材を終えてスタジアムを出るとなると22時を回るだろう。調べるとStade Chaban Delmasまではバスで30分ほど、スタジアムに近いこのドミトリーを選んだことも運命のように思えてきた。

スタジアムへと向かうファン

夕暮れのStade Chaban Delmasは、のどかな場所だった。親子連れが旗を振りながらエントランスへと向かう姿を横目に、長老の様なファンがビールを嗜む。騒がしくなく、静かでもない、これから始まるラグビーが日常の中の楽しみのひとつであることがファンたちの姿から伝わってきた。

試合前のワクワク感が伝わる笑顔

試合前のピッチ、小雨が降る中、タタフは入念にストレッチを続けていた。7月に日本で見た時よりも、若干体が絞れているような気がした。圧倒的なフィジカルで前へ、前へと突き進むタタフが見たい。強化試合ながらこれがタタフのフランスデビュー戦になる。カメラをセットしてキックオフを待った。

約30,000人収容のスタジアムの半分がファンで埋まった。出場選手にアナウンスに合わせてファンたちが名前を叫ぶ、その光景はW杯と同じだ。試合の大小は関係ない。見る人にとってラグビーは、ラグビーなんだ。

選手を応援するファンたち

キックオフ、タタフはなかなかボールを受けることができるず、フラストレーションがたまる試合だった。それでも前半20分ごろ、密集から抜け出し、激しくぶつかりながらビッグゲインを見せた。新しい世界で戦うその姿を見て、なぜタタフを撮りたいと思ったのかがわかった気がした。

新たな環境で、自分を試していたい。自分のやりたいことが明確になると、それがどこまで通用するのか知りたくなる。まったくダメかもしれない、相手にならないかもしれない。それでもやらずに後悔するのだけは嫌だ。

スタジアムで着用したフォトビブス

新聞社を辞め、フリーランスとして新たな環境を求めた。厳しい世界であることは重々承知だ。ただ自分の夢を諦めたくなかった。最高のラグビーを撮りたい。その思いで飛び出した。

「行け!」と何度も念じながらカメラを構えた。その後もタタフは2、3度ボールを受けては確実に前へとボールを運んだ。守備では激しいタックルでチームのピンチを救った。試合後のタタフは「まだまだ、まだまだできる」と言わんばかりの表情だった。

心の中で「当たり前だ。まだまだやんなきゃ」と叫ぶ自分がいた。それはタタフ、そして自分に対しての言葉でもあった。ボルドーで、自分にとって大切なものを確かめることができた。

翌朝、パリへと向かった。いよいよ決勝トーナメントが始まる。今できることのすべてを出し切ろう。どこまで自分が通用するのか限界まで試してみよう。きっとその先に新しい世界が開けるはず。

7万人が見つめるスタッド・ド・フランスのピッチ。ファインダー越しの世界が、いつもよりも明るく見えた。


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