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北海道出身の若者が、秋田で羊とウサギの牧場を開いてみた。あきた牧場 武藤達未

2021年6月、北海道出身の武藤達未さんが夢の第一歩を踏み出しました。秋田県では珍しい羊とウサギの牧場を開いたのです。武藤さんの夢は「秋田を羊とウサギで盛り上げる」こと。

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≪名前≫武藤達未(むとうたつみ)
≪年齢≫24歳
≪出身≫北海道白糠郡白糠町
≪経歴≫実家の羊牧場を継ぐため、秋田県立大学 生物資源科学部に入学し、微生物や食品衛生について学ぶ。しかし、同大学でのサークル活動をきっかけに、秋田で自分の牧場を開くことを目指すように。大学を卒業した後、ハピー農場(大仙市協和)へ就職。2年間の研修期間を経て2021年6月に独立。秋田市河辺の小平岱地区に羊とウサギを飼育する「あきた牧場」を開いた。

2020年、まだ研修中だった武藤さんをインタビューさせていただいたこともある、あきたびじょんBreak取材班。独立後の様子が気になり、7月末に再取材を行い、牧場の様子や独立までの活動を伺いました。

以前取材した記事はこちら。

北海道出身の武藤さんが、なぜ秋田で牧場を開こうと思ったのか。その理由が気になる方は、ぜひ過去の記事をご覧ください。

秋田にできた羊とウサギの牧場

― まずは牧場の開設、おめでとうございます!以前取材してから、ずっと楽しみにしていました。

ありがとうございます。できたばかりで、まだまだ準備中な部分もありますが(笑)。

― 牧場の名前「あきた牧場」に込めた思いを聞かせてください。

実は最初、小平岱(こびらたい)地区にある牧場なので、「小平岱牧場」にしたかったんです。けど、それだとインパクトが弱いと思って「あきた牧場」にしました。どうせ名前を付けるなら、大きな名前にしようと。秋田を盛り上げるという僕の夢にもぴったりでした。

それでは、まずは羊から紹介します。

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― おっ、いました!みんな集まってますね。

あの羊たちは「サフォーク」という種類で、北海道の牧場から買ってきました。連れてきたばかりだから、まだ人に慣れていなくて、近づいたら逃げちゃいますが。

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<取材当日は最高気温が30度以上の真夏日。羊たちも日陰で休憩>

― 何歳くらいの羊なんですか?

3~4歳が多いです。繁殖に使うのはおおよそ7歳まで。今年から来年の夏くらいまでかけて繁殖させ、うまく頭数が増えれば食肉として出荷するつもりです。

そしてこっちが「マンクスロフタン」という羊。この種類は原種に近いとも言われていて、けっこう野性味があります。しばらく見ていれば、オス同士でケンカとか始めちゃいますよ。ここにいるのは全員オスで、毛を刈るために育てています。

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― へえー。羊毛って、オスとメスで違いとかがあるんですか?

あります。オスのほうが、においが強く、洗っても残るんです。それが結構大変というか。なので洗剤をちょっと多めに入れて、頑張って洗ってます(笑)。

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<オスのマンクスロフタンの毛。洗う前の毛は油脂のにおいがかなり強い>

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<こちらはメスのサフォークの毛。洗った後ということもあり、ほのかに甘い香りが漂う>

― 羊毛はもう販売を始めているんですか?

依頼のあった個人にだけ売っています。まだ安定した量がとれないし、羊毛って、刈ってみて初めて商品として使えるかが分かるので、流通にはまだ乗せていないです。

毛を買ってくれる方はそこから糸を作ったり、手芸で作品を作ったりしているみたいです。

― 小屋の中ではウサギを飼っているんですね。

ウサギたちはハピー農場から連れてきました。これで10か月くらいかな?ここからもっと大きくなります。

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― 結構大きいように見えますが。

お肉として売るのであれば、この大きさでも大丈夫です。でも、ウサギも羊と同じく、繁殖が成功してから食肉として売る予定です。今は小屋で育てていますが、反対側にあるビニールハウスの準備ができれば、そこに移します。

― そういえば、ビニールハウスが2棟あったのが見えましたが、あれはウサギ用だったんですね。

はい。6月の中頃に完成したばかりなので、中がまだ準備できてなくて。ハウスは比内地鶏用のものを参考に作ったので、冬の雪などもおそらく大丈夫。2棟合わせて、400~500匹のウサギを飼育可能です。将来的には、一月あたり最大で80匹の出荷を目指しています。

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<ハウスの中。準備が整えば、棚の上でウサギを飼育する>

不安もあるけど、やるしかない!

― ハピー農場での2年間の研修を終えて、この6月に独立した。

そうです。5月31日付で退職して、6月1日に開業届を出しました。ハピー農場の吉川社長は、僕が秋田で羊をやりたいと話したとき、すごい興味を持って賛同してくれたんです。「力になれることがあったらやるよ」と言ってくれて。飼育の方法からビニールハウスの作り方、自分の牧場の成り立ちや、どうやって経営を軌道に乗せたか、なんていう経営のノウハウまで教えてもらいました。

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― それだけ武藤さんの熱意が伝わっていたんだと思います。独立して自分で事業を興すのは、決して簡単なことではないと思いますが、不安などはありませんでしたか?

それはもう、めちゃくちゃありましたよ(笑)。「本当にやるのか…」という思いと、「計画の上では3~4年で黒字化するはずだけれど、それまでの生活はどうすればいいんだろう」と考えると、眠れない日もありました。羊とウサギは需要がニッチなので、どうやって稼げばいいかとか、どこに売ればいいかなど、分からないことも多かったですし。

実際に独立してからは、何とかやれています。最初は「羊なんて誰が買ってくれるんだろう?」って思っていましたが、実際には5~6件、個人で営業しているレストランから引き合いがありました。今はもう「やるしかない」と割り切って取り組んでいます。

見本となるべく努力する

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- 思い出してみると、武藤さんは羊とウサギによく声掛けをしていましたが、動物と接するときに注意していることはありますか?

言われてみると、確かに声掛けしていますね。家畜は最終的に出荷されるものだから、普通はあまり愛情を持って接してはいけないと言われています。でも僕は、羊にもウサギにも、人を相手にするように接して育てています。これは人それぞれの考え方があると思うので、正解はないとは思いますが。

うまくは言えないんですけど、できれば出荷されるまでは、羊やウサギにはストレスなく、のびのびと育ってほしいし、彼らに不満がないようにしたいです。こだわりってほどじゃないけど、この牧場がちゃんと羊を育てる見本になりたいなとは思っています。

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- 見本というと、武藤さんのように羊の牧場を作りたい人の見本ですか?

はい。そのために、北海道の実家のような、きちっと整備された牧場を作りたい。「羊牧場でも稼げるんだぞ」ってところを見せたいんです。全国を見渡せば、羊飼い志望の人は意外といます。そういう人の見本になって、1人でも羊飼いを増やしたいし、なんなら人口減少が進んでいる秋田県に移住して来てほしいとも思っています。

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羊とウサギの魅力で秋田を盛り上げたい!

- 今後、挑戦したいことはありますか?

やりたいことはたくさんありますが、羊やウサギとの触れ合いや、羊毛を使った作品作りが体験できる観光牧場は考えています。もちろん、伝染病予防などの衛生管理には細心の注意を払わなければいけないので、経営がしっかり軌道に乗って、牧場の環境が整ってからになりますが。

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- 最後に、これからの目標を教えてください。

一つ目の目標は、5年間で羊を100頭まで増やすことです。見渡すと『ぶわーっ』っと羊がいる風景を作りたい。それまでにきっちり土地を整備しなきゃいけないし、資材とかもたくさん借りなきゃいけないですが、なんとか実現したいです。二つ目は、秋田県内でのウサギの普及。飲食店でウサギが日常的に食べられるようになるくらい、ウサギ産業を活性化させたいです。

独立した今は、自分でなんでも決められます。羊とウサギの魅力を広めて、秋田を盛り上げられるよう、これからも頑張ります!

【あきた牧場】
《住所》秋田県秋田市岩見字小平岱2-45

【取材・文:あきたびじょんBreak取材班(広報広聴課)】