最悪の魔女スズランの世界


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 ↑の自著「最悪の魔女スズラン」の舞台となっている世界について、割と独特な設定だと思うので解説。本編を読んでもよくわからなかった方向けですが、ここから本編に興味を持ってくれるかもしれないという期待も込めてみたり。

1.成り立ち
 その昔、とある世界の地球人類がパラレルワールドを観測する技術を開発。それによって次々に世界を飲み込み消滅させている「灰色の炎」の存在も知りました。彼らはそれを「滅火(ほろび)」と名付けます。
 侵攻速度から見て彼らの世界に滅火が到達するのは一万二千年後という計算結果が出ましたが、だとしても何も対策を立てなければ未来の人類は世界ごと消滅してしまう。なので滅火への対抗策を講じる研究者たちも現れました。
 そういった世界は他にもいくつかあり、並行世界観測技術の応用で他世界との通信も可能になった彼らは急速にこの分野の知識を高め、技術を発展させながら対抗策の研究を続けました。

 そんな中、日本人の夏流 賢介という青年が滅火の力を大幅に減衰させる数式を発見します。しかし実際に試したわけではないので本当に効力があるかはわからず、慎重な彼はこの発見について公表したりはしませんでした。
 彼の研究室では同時にもう一つ対抗策が研究されており、そちらが本命でした。並行世界観測技術をさらに発展させた並行世界転移装置です。滅火を防ぐ手段が無いなら別の遠い世界へ逃げてしまえばいい。そういう計画。
 こちらはすでに動物を使った実験に成功。けれど倫理的な問題で人間を転移させることはできず停滞している状態。滅火の到達は一万二千年後なので、急ぐ必要は無いという意見が大勢を占めていたのです。

 ところが、ここに誤算がありました。滅火は触れたものを過去にまで遡って消し去り、最初から無かったことにする力です。それによって歴史に矛盾が生じ、その矛盾からさらに滅火が溢れ出します。
 距離があったから、最初に滅火を観測した時に飲み込まれた並行世界の記憶を忘れるまでタイムラグが生じました。そのおかげで滅火の存在を認識し対抗策を研究することができたのですが、この時ついに彼らの中の記憶が失われ「矛盾」が生じました。
 つまり一万二千年の時を待たずに滅火が溢れ出したわけです。彼らの世界は想定より遥かに早く滅亡の時を迎えました。

 世界がどんどん滅火に飲み込まれていく中、賢介は一つの賭けに出ました。滅火の力を減衰させ消滅を免れる数式が自分の頭の中に存在している。研究によって人間の想像力が世界を生み出していることもわかっていました。だから自分の脳内にある世界を転移先に設定し、転移装置で家族をそこに退避させる。
 彼自身はその世界に行くことができません。退避先の世界が彼そのものだからです。それに転移装置を誰かが操作する必要がありました。
 装置の中には彼の妻マリア、三人の子供たち、妻の双子の姉、助手をしてくれていた二人の計七人が入りました。研究室まで滅火が到達する直前、彼女たちは賢介の脳内世界へ転移。

 この試みは成功し、マリアたちは滅火による消滅を免れた賢介の脳の中で生き延びました。彼の想像力によって生み出されたその世界では、彼女たち七人が始まりの神々に選ばれ、新世界を拡張していくための権能を与えられることに。
 妻マリアは魂を司る神に。その姉ユカリは情報を司る神。長男カイは破壊神。長女ミナは創造の神。次男ユウは均衡の神。助手の龍道は生命の神。同じく助手の要は時空の神。
 彼らはその力で数えきれない世界と命を生み出し、後に「始原七柱」と呼ばれるようになりました。
 スズランたちの世界は、そうして生まれた新しい世界の一つ。滅火によって元々あった並行世界群からは断絶されましたが、歴史は繋っているのです。

2.構造
 賢介の脳内に構築された新世界を軸にマリアたちが創世した新たな並行世界群は現在、彼女たちが最初に転移した始まりの世界に「界球器(かいきゅうき)」と名付けたシャボン玉が数多浮かんでいるような状態です。
 この泡は歴史の起点であり、内部で生きる者たちの選択によって歴史が分岐すると、泡の中にさらに小さな泡が生じます。
 そうしていくつもの並行世界が誕生しました。界球器を大世界とすると、この並行世界群は小世界と呼ぶこともできます。小世界と言っても、その中には一個の宇宙があり、数え切れない生命が生きていて、彼らの視点から見ればとてつもなく大きな空間です。

 スズランたちの世界も、そんな小世界の一つ。ただし彼女たちの世界は特殊構造世界と呼ばれています。
 というのも、マリアたち始原七柱はある時点で決裂して戦争を始めたのですが、その戦争の過程で生み出された通常とは異なる構造の世界がいくつかありました。スズランたちの世界もそれで、界球器全体が他とは異なる仕様になっています。

 まず、スズランたちの世界に宇宙は存在しません。本来なら宇宙という広大な空間を形成する分のエネルギーを地球一個分の空間しかない小世界に集約させています。そうやって強度を高め、始原七柱同士の激突にも耐えられる戦場を作り出すための研究によって生み出された試作品。それがあの世界なのです。
 なので、スズランたちの体も普通の世界の人間に比べてかなり頑強だったりします。通常世界でなら銃で撃たれても傷一つ付かないでしょう。ある意味全員が超人と言っても過言ではありません。

 他にも通常の小世界とは異なる点があります。まず、スズランたちが暮らすあの世界は球体の表面ではなく内部にあるということです。地球サイズの生命球だと思ってください。ガラスの球の中に水を入れ、土を盛り、水面から少し出ている部分が陸地になりました。そのためスズランたちにとって世界とは平面であり、ある程度の高度まで上昇すると端から端まで全体を見渡すことができます。
 空は小世界を包む壁。つまり天井で、夜空に輝く星々はただの照明。太陽は光と熱を放ちながら移動する環境制御装置。月も同様の役割を持つ装置。人類の大半は知りませんが、どちらにも高度な知性を与えられた猿が生息していて設備の点検と維持を行っています。スズランたちが四方の神と呼ぶ神々のうち一柱・鍛神ストナタリオの管轄なので設備が故障したりした場合には彼が修繕してくれます。
 ちなみにスズランたちは彗星や流れ星を知っていますが、それらは夜間に事故などで脱落した照明が落下するのを見たことにより生まれた言葉です。

3.文化等
 スズランたちの世界は始原七柱の一人、マリアによって創世されました。彼女は先に語った通り新世界の礎となった賢介の妻でイギリス生まれ日本育ちの女性です。髪となった時点では三十代後半でしたが、神になった後に徐々に若返り、二十代半ばの肉体的にピークを迎えた状態で固定されました。
 彼女はイギリス人には珍しい銀髪碧眼の美女で元の職業は教師。その美貌と珍しい出自から「美しすぎる女教師」などとテレビで紹介されたこともありました。
 そんな彼女の作った世界なので、スズランたちの世界は地球、特に日本の影響を強く受けています。

 まず使われている言語は日本語と英語。主には日本語で、それを補助する形で時々英語が出てくるような形。つまり現代の日本人が使う言葉とほとんど変わりません。
 言語以外の文化もマリアが人間だった頃の知識から影響を受けています。
 千年ほど前まで中央大陸はニホンという名の単一国家が統治していました。地名が日本のそれと同じなのはマリアが彼らにそう教えたからです。当時のニホン国民の文化は江戸時代の日本のような感じで、その名残りが現代のココノ村住人の服装などにも残っています。ココノ村だけでなく大陸北部の住民は今なおニホン様式の着物や建物、つまり「和風」を好むのです。若者は現代西部様式、つまり「洋風」を好むようになってきたため、現在は明治の頃の日本のように両方が混在している状態ですが。
 マリアがとある漫画を愛読していたため、カゴシマ人が戦闘民族になっていたりもします。

 やはりマリアの意識の影響を受けたのか、西部はヨーロッパ的な文化に変化しており、東部では西と北の文化の混淆がより進んでいます。南部は気候がかなり違うこともあって独自の変化を遂げており、地球の中東地域のような文化になりました。先に書いたカゴシマのみ頑なにニホン様式を貫いていますが。
 技術レベルも戦前の日本と同じくらい。ただし「電気」を使うことは禁止されているため、機械的な装置はゼンマイ仕掛けや魔力を必要とする設計。
 魔法使いはホウキで空を飛べて、その魔法使いたちが主に技術開発を行っているため自動車や飛行機はまだ作られていません。魔力を持たない一般人がそれらを開発しようとしているところもありますが、制約が多くてなかなか上手くいってないようです。
 魔法のおかげで部分的には現代日本に近い水準に達しており、設置には莫大な費用がかかる上に大きな装置を設置しなければなりませんが、地脈を利用して遠方の人間と会話できるビデオ通話システムもあります。

 治安は国次第。南部は暴れん坊のカゴシマがいたり、ゲッケイも住んでいたり、小国が無数に乱立して争っていたりでかなり酷い有様でした。しかし最近はイマリの呼びかけで対カゴシマの同盟が成立したため、多少改善されてきています。
 東部には三柱教の総本山シブヤ、西部には大陸最大の軍事国家キョウトがあるので元々それなりに安定。北部は七大国の一つミヤギを中心に結束しているので、やはりここ百年ほどは平和な時代が続いています。それでも小さな事件や紛争は時折生じます。ココノ村の衛兵隊長ノコンが活躍したオガの戦いもその一つ。

 この世界は魔法の存在するファンタジー世界ですが、いわゆるモンスター、魔物は存在しません。それらしき生き物が全くいないわけでもないのですが、単に一部の動物が大型化しただけだと思われています。数も希少でツチノコのような空想の産物と思われていることも少なくありません。
 なので魔法使いたちも基本的に対人だけを想定した訓練を行っており、戦闘技術もそういう方向に特化しています。ドラゴンは千年前までは実在したのですが、すでに絶滅してしまっているのでドラゴンと戦う可能性を考えるのは夢想家だけです。
 異種族はドワーフ、エルフ、ウンディーネなら今も存在しています。しかし事情があってそれぞれ別の大陸で暮らしているので、彼らと顔を合わせることは稀。ほとんどの人は一度も見ることなく人生を終えます。理由は電子書籍版スズラン二巻が発売されたら、そちらでご確認ください。冒頭で説明しています。

4.他作品との繋がり
 僕の作品は基本的に全て繋がっています。そもそも今から二十八年前に生まれて初めて書いた小説が、先に説明した世界観に基づく作品だったからです。他は全部そこからの派生作品なのです。
 最初に書いた小説は何故か「滅火」を操ることのできる少年が仲間たちと共に始原七柱に立ち向かい、彼らの企てている全ての世界を巻き込む壮大な自殺計画を止めるというものでした。
 つまり、その後の作品は自殺計画が阻止された後の物語です。計画阻止を成し遂げた少年・鏡矢 零示の子孫も後々スズランに関わる予定です。一巻を読んでくださった方はご存知でしょうが、始原七柱の方はすでに登場済みです。
 時間は多少前後しますが、他作品でも彼らが出てきたり、あるいはスズランやその関係者が登場したりします。もし興味を抱かれましたらなろうなどの投稿サイトでご覧ください。意外なところで見覚えのある名前が出てきたりするので。

5.スズランたちの現状
 最後にこれを説明。電子書籍を読んでいただければわかることですが、未読の方もいらっしゃるでしょうから。二巻の発売前に書いており、一巻のネタバレを含みます。ご注意ください。

 さて、スズランたちの世界はアルトラインが予知した通り、数年以内に消滅する可能性が大です。というのもマリアと同格の神々、つまり始原七柱の生み出した強力な呪いに界魂器全体が蝕まれているからです。
 この呪いはアルトラインたち四方の神々でも祓うことができません。彼らより上位の存在だからです。抵抗はしていますが、わずかに完全消滅の時を遅らせているに過ぎず、生き延びるにはスズランの力を頼るしかないのが現状です。何故スズランなのかは電書版の一巻をご覧ください。
 そのスズランの力をもってしても現状は連戦連敗。同一界球器内の数多の並行世界にそれぞれの世界の彼女、つまり同位体がいて崩壊の呪いに挑みましたが、今のところ一度も勝利できていません。敵はそれほど圧倒的な脅威です。

 さらに呪いは界球器全体を覆っており、外部からの救援も望めない状態。他の界球器にはこの呪いに対抗できる力の持ち主が何人か存在するのですが、そもそもここで起こっていることを知らなかったり、知ってはいるもののどうやって助けに行けばいいかわからず方法を模索している状態。
 なので、スズランたちが生き延びるには自力でどうにかして崩壊の呪いを祓うか、外部からの救援を呼べる状態を作り出すしかありません。
 いかにしてそれを成し遂げるかは続刊したら判明します。なので、気になる場合は電子書籍を買っていただけると助かります。


 というわけで今回はここまで。また何か書くことを思いついたら更新します。

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