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密林にて迷子

Amazonで注文したある雑誌が届かない。配送予定日は昨日だったが、今日の昼過ぎになってもまだ届かない上、配送状況がどうなっているのかも確認できない。

普段出来るだけ書店で買い物をするようにしている私だが、今回はどうしてもAmazonで購入したかった。書店で購入するのが憚られた。私が購入したのは、anan 2024年7月3日号、「魅せるカラダ」特集。表紙を飾るのは、ここしばらく私が夢中になっている、なにわ男子の大橋和也くんだ。私はこの雑誌を、発売初日に自宅に届くように予約した。この日をずっと待っていた。

私が大橋くんに心酔していることは夫にはカミングアウトしてある。到着予定日の6月26日までの一週間ほど、私はとにかくうるさかった。「大橋くんが届くまであと○日!」「大橋くんに会えるまであと○日!」「全国の大橋担および私が爆死するまであと○日!」とカウントダウンの日々であった。「ananが届いたらここに飾るからね!」と祭壇まで用意した。それなのに、それなのに6月26日になっても、27日になっても大橋くんはやって来ない。何度も何度もAmazonの「配送状況の確認」ボタンを押す。居ない。大橋くんは居ない。どこに行ってしまったの、大橋くん。

一応断っておくが、これはセックス特集ではない。あくまでも身体作りの特集だ。でも何だか、私は恥ずかしかった。表紙の大橋くんはとってもセクシーに濡れていたし、何より魅せる「カラダ」とカタカナ表記になっているのが妖しい。「身体」と書けば良いのに「カラダ」だなんて、何かけしからん感じがする。とにかくけしからん。こんなけしからんものを、店頭で買う度胸が無かった。(さてはこいつ、大橋和也をエロい目で見ているな)と思われたらどうしよう。いやいや、違うんです。ただ純粋に好きなだけなんです。と、弁明したくとも、店員さんは何も言ってこないだろうから、こちらも何も言えない。恥ずかしい思いをして帰ってくるだけだ。

しかしやはり欲しい。どうしても欲しい。でもどうすれば良いのだろうか。荷物は一向に届く気配がない。もし早々に売り切れてしまったらどうしよう。だってあの大橋和也が表紙なんだぞ。色々な思いが頭をよぎっては消えていく。

そこで私は腹を括ることにした。今日の仕事終わり、本屋さんかコンビニで、ananを買おう。行方知れずの荷物のことは忘れよう。入れ違いで届いたとしても、ananが二冊あったところで何の問題もないじゃないか。750円くらい、Amazonにくれてやる。

というわけで6月27日の仕事終わり、私は書店に立ち寄った。ananだけを目指して。もし無かったら次はコンビニに行こう、と思っていたが流石はanan、すぐに見つかった。大橋くんは陳列され、こちらを見つめていた。大橋くんは沢山居た。会いたかったよう…と沢山居る大橋くんのうちのひとりを手に取る。ここからが問題である。いかに、「大橋和也をエロい目で見ているわけではない」という風を装うかが問題だ。いや、装うんじゃない、本当にエロい目でなど見ていないのだ。嘘じゃない、本当だ。誰か信じてくれ。と心の中で釈明する。冤罪で捕まった人の気持ちはこうだろうな、と思う。

結局迷った末に私が思いついた作戦はこうだ。美容師さんのふりをするのだ。美容師さんならお店に置く雑誌を買うじゃないか。とても自然な行為だ。ことにananのようなメジャーな雑誌なら高確率で店舗に置いてあるだろう。そうだ、私は美容師だ。こんなに身だしなみにも容姿にも気を遣わない美容師がいるのか? という疑問はさておき、私はとにかく美容師だ。

美容師の私はレジへと向かった。そこでハッと気がついた。美容院には何冊も、何種類も雑誌が置かれている。ということは、美容師さんは一度の買い物で複数種類の雑誌を買うのではないか。ananだけ買う美容師なんて、ちょっと不自然だ。これでは「ちょっとエロい大橋和也を拝みたい美容師」だ。違う違う。私が目指す美容師はもっと普通の美容師だ。普通の美容院に勤める、普通の美容師…。私はくるりと雑誌コーナーへと戻り、GINZAを手にした。これで大丈夫。私はどこからどうみても、雑誌を買うという仕事をしている美容師だ。胸を張ってレジへ赴く。こうして無事にananとGINZAをゲットし、私は家路についた。

結局、私は1,699円出してananを手に入れた。1,699円なんて、安いもんだ。内容については敢えて触れない。感想も述べない。私の喜びは私一人だけのものだ。知りたいのなら、皆も今すぐananを買うがよい。

しかし密林で迷子になった大橋くんよ、今何処に居るのですか。こういうことがたまに起こるから、私はAmazonを信用していないのだ。この、資本主義に染まった密林め。私は書店主義を貫こうと思う。が、もし大橋くんが表紙のセックス特集が出てしまったらどうしたら良いんだろう。欲しいのか? 買うのか? 買うとしたら書店なのか? そんな勇気が私にあるのか? 今から怖くて震えている。GINZAは、仕方ないので店に置いている。

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