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あなたの生ハム作ってみませんか ―秋田市河辺―

秋田市の地域おこし協力隊の武藤です。

突然ですが、生ハムの原木を近くで見た事がありますか?
オシャレなレストランで薄くスライスしてくれるあの肉の塊です。
私も東京で働いていた頃は、都内のレストランでスペインやイタリアから輸入されてきたであろう生ハムをワイン片手に「たまには美味しいものを食べよう♪」という気分の時に食べていました。

生ハムってそんなイメージじゃないですか?

しかし、二十数年ぶりに秋田に戻ってきた私は、友達に連れて行ってもらった山の上のレストランで衝撃の光景を目にするのでした。

01_生ハム

02_生ハム


こちらは秋田市河辺(かわべ)にある「山の学校 北の風」。

ここは50年くらい前、岩見ダムを建設する際の作業場として使われていた場所で、現在のレストラン部分は食堂だったそうです。
ダム完成後は旧河辺町の青少年自然の家として利用されていたのですが、秋田市との合併のタイミングで山岳ライターの藤原優太郎さんが買い取り、「秋田 山の学校」という山岳サークルの拠点となっていました。
その後、建物の半分を借りて、「自然工房 北の風」としてこの地で生ハム作りがスタートしました。

03_スタッフ紹介

【山の学校 北の風】 
小野修生(おの・のぶたか)さんと阿部静香(あべ・しずか)さん


今回は生ハム作りを体験しながら、お2人に話しを伺ってきました。

【現在の形になる大きなきっかけは東日本大震災】


―すごい量の生ハムですね。

生ハム作りを始めた当初は自分達や知り合いだけで生ハムを作っていたんですが、今はいろいろなところでワークショップをして、沢山の人に体験してもらった生ハムをここで管理しています。


―いろいろなところというと?

秋田市内はもちろんのこと、宮城、山形、福島、福井、東京の数か所の酒造や蕎麦屋、ワイナリー、バー、IT企業の執務室、公民館など様々な場所です。


―県外でも生ハム作りをやってるんですか?

最初のきっかけをつくってくれたのは福島県亘理町にある「カフェギャラリー 風と木(ふうとぼく)」の丹治さん。
東日本大震災後、放射線量が多くて営業が出来なくなった事から丹治さんは東北各地を巡っていて、その途中で河辺へ生ハム作りの体験に訪れたんです。
その時、「自分の店でもやってみたい。」という丹治さんの話から福島へ出前ワークショップに行くことになって、今年はコロナの影響で行けなかったけど、現在まで8回、1回につき30-40名に参加してもらってます。
そこに参加してくれた人がうちでもやってみたいという事でどんどん広がっていきました。


―そこで体験された生ハム達がここにあるという事なんですね。

ワークショップ終了後はここに持ち帰って、その後の処理や熟成を行っています。
遠方の方が自分の生ハムの様子を見に来る人もいますよ。


生ハムをきっかけにした関係人口が増えているなんて知りませんでした!



【生ハム作りに最適な場所】


―ここは生ハム作りに向いている場所なんですか?

生ハム作りには「熟成環境」「原材料」「微生物」が重要で、ここ河辺は熟成に向いた環境である事に加えて、秋田県食肉流通公社が近くにあるとても良い立地なんです。
発酵に必要な微生物も十分住みついているから、美味しい生ハムが作れています。


―昨今の気候変動で影響はありますか?

毎年生ハムを繰り返し作っていることで気づいていく事もありますよ。
この場所は水が通っていなくて、3年前に沢の水をひいて、濾過・浄化・消毒をして使えるようにしました。
今年は寒波の影響で昨日まで水が凍って使えなくなっていたけど、元々使えなかった事を思い出したら何ともなかったよ。


―その状況に対応していくという事ですね。

この環境を活かして、ここを拠点にした「ここでしかできない事」をやっていく。
これからは「自然との共生」を考えていかなければならないんだよ。


最後に小野さんが口にしたこの言葉が、とても力強く心に響きました。




【実際にワークショップを体験】


生ハムの仕込みは10度以下で行わなければならない為、11月~2月くらいまでの冬季限定。
事前に予約が必要です。

肉は指定が無ければ秋田県産のブランド豚を使用しています。

04_加工前

今回は仙北ファームの豚を使用

まずは豚のもも肉の血抜きを行います。
既に処理をされている状態なのでそんなに多くの血は出ませんが、絞り出す感じで血管のある場所を強く押しながらこすって、残っている血を出します。
なかなか力のいる作業です。

05_体験①

血管の場所を教えてもらっています

06_体験②


次に塩をまんべんなく塗り込みます。

07_体験③

こんなに沢山の塩を使うの?と思いますが、後日塩を洗い流す塩抜きを行います。
正確には“行ってもらいます”。

ワークショップは十分に塩を塗り込んだ肉を保存ケースに入れて終了。
あとの行程は小野さんにお任せします。

塩抜きや乾燥、熟成を経て、1年後に生ハムとなった塊と再会できます。
10キロの肉を仕込むと、1年後には水分が抜けて8キロくらいになっているのだそうです。

08_生ハム

完成した生ハム

実はこの生ハム、私が実際に1年前に仕込んだ生ハムなんです。
自然と「こんなに立派になって…」という言葉が口から漏れました。

しかし、この塊…どうしよう。
昨年仕込んだ時には「完成パーティーでもやってみんなで食べよう」と思っていたのですが、この時期そんな事も出来ないので、自宅で追熟させながらゆっくりと楽しむ事にします。

09_小野さん

切り方や食べ方のレクチャーもしてくれます。


=生ハム製作体験のご案内= -1年熟成-
所要時間 1時間半程度(11時頃~)
料金 25000円(税別)、30000円(税別)、35000円(税別)
(価格は原材料によって変わります)
※塩漬けした生ハムは、山の学校で保管・管理してもらえますが、持ち帰り自宅で保管・管理を希望される場合は、5000円(税別)値引きとなります。
※2年熟成をご希望の場合は、プラス5000円(税別)で保管・管理してもらえます。
※材料の仕入れの都合上、申し込み後のキャンセルは出来ませんので、ご注意ください。

生ハム制作体験の他にピザ、ソーセージ、ソバ打ち(11月期間限定)等のワークショップも体験できます。
また、予約制ですが、日替わりで既製品を使用しない手作りのランチは1,000円(税別)で食べられます。

10_ランチ

この日のランチはこちら。右側の揚げ物は生ハムコロッケです。


【山を下りて街へ】

昨年5月末からは秋田市南通にあるシェアキッチン「UP TO YOU」に金曜の夜と土曜のお昼、出店されています。
金曜の夜は秋田市でクラフトビールを作っている「ブリュッコリー」さんと共に出店しているので、美味しいビールを飲みながら、生ハム原木から切りたての生ハムを食べる事が出来ます。
「山の学校 北の風」は秋田駅から車で30-40分くらいなのですが、なかなかそこまで行けない方や、お酒を飲みながら生ハムを食べたい方はこちらがおススメです。

お店に来てくれる地元のお客さんでもまだまだ「秋田市で生ハムを作っているという事をほとんど知らない」と阿部さんは言います。

市民ですら、まだ知らない魅力が沢山ある「秋田市」。
これからもっと見つけて、知ってもらう事が私の使命なんだと改めて感じました。


今回ご紹介した「山の学校 北の風」のお問い合わせ先はこちら↓



【著:秋田市地域おこし協力隊 武藤沙智子】