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広面日記 vol.1 今日、私の知らない蝉がいることに気がついた。

数日前からこの家でも蝉が鳴き始めた。
昨年の冬に引っ越してきたのでこの家で夏を迎えるのは初めてで、当然蝉の声を聞くのも初めてだった。
とはいえその以前にもこの辺りに住んでいたので、見知らぬ土地へ移動したからというわけではないのだけど。

今日、私の知らない蝉がいることに気がついた。
どんな鳴き声か覚えていないが、「あれ、蝉の鳴き声が違う」とだけわかった。
そもそもこれまでに聞いていた蝉の鳴き声も知らないけど、いつもと違うのはわかる。
いつもの蝉が夏休みど真ん中の感じなら、この蝉は夏の終わりのような鳴き声だ。どんなだ。伝われ。

九月のような蝉の声が夏を告げる。
まだ梅雨も明けていないのに控えめな声が響く。
窓を開けて聞こうかと思ったが、さっき網戸についていたのでやめた。
中学校の頃、寝苦しい熱帯夜に蝉が部屋に飛び込んできたことを思い出す。ああなると虫の鳴き声として認識できないくらい五月蝿い。「八月蝉い」と書きたい。

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知らない蝉の声は聞こえるが、太鼓や笛の音が聞こえない。
今年の夏は音が足りないのだ。
竿燈祭りも港まつりもなければ、秋田に夏は来ない。
友達のサーフィンに行ったという話も、SNSに流れる生グソの写真も、昨年の話をしているかのように思えた。

近所のおっさんのくしゃみが轟く。
蝉よりうるさいし、それは夏の音じゃない。

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