Arduino UNO R4について思うこと

イマドキの電子工作のあり方を変えた(と個人的には思っている)マイコンボードにArduinoがある。その中で、定番といえるのが、"Arduino UNO R3"というやつ。
https://www.switch-science.com/products/789

Arduinoが、それまでの(そして詳しい人しか使え/わなかった)無数のマイコンボードと異なる点はいろいろあるけど、個人的には「ジャンパワイヤが挿せるメスソケット」「PCからかけられるDTRリセット」「USBで給電と通信」「インストール容易でサンプルもついているIDE」の4つだと思うんだけど、それに加えて「オープンソース」がある。プログラムやライブラリのソフトウエア面と、回路図や基板設計データなどのハードウエア面の両方。それがあるから「心配ならば、いざとなれば中身を確認できる」という安心感につながる。そしてこのオープンソース性が、"Arduino Derivatives"という派生品・互換品をつくる土壌になって、それがユーザを大きく増やし、ユーザコミュニティを広げる要因になった、といえる。

で、このArduino(の会社)に、日本の半導体メーカのRenesasが出資、と報じられたのが2022年6月。「巨大な開発者コミュニティ向けの製品提供を実現へ」と題している。
https://www.renesas.com/jp/ja/about/press-room/renesas-announces-investment-popular-open-source-company-arduino-access-huge-developer-community
これに対する見方は、賛否両論で、個人的にも、両方の面がありそうで、まずはお手並みを拝見、というつもりで見ていた。
というのも、一般論として、日本の半導体メーカは、B2Bが大半で、例えば秋葉原の部品屋で、日本の半導体メーカのマイコン単体を売っているのはほぼ皆無だし(むかしはRenesasの前身の一社の日立のH8とかR8とかは売っていたけど)、載っているボードも、(語弊を恐れずに言えば)Arduinoのユーザ層を狙っているつもりなんだろうけど、どうも「使えるものなら使ってみろ」的な点を感じることが多々あった。またデータシートをダウンロードするにも、ユーザ登録が必要だったり、下手をすると、代理店に問い合わせろ、だったりする。もちろんそうなっている歴史的経緯や会社の事情も、ある程度はわかる。

で、このArduinoへのRenesasの出資の産物(?)の第一弾と思われるのが出てきた。
https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1488540.html
定番Arduinoの名前をつけた"Arduino UNO R4"だけど、載っているマイコンは、UNO R3のATmega328とは全く互換性がない、RenesasのARMマイコン。ただし性能はかなり高くて(ARM Cortex-M4)、最近のエッジAIやIoT的な処理をしようとすると演算性能もメモリ容量も足りないUNO R3に比べれば、これらの用途に使える場面は多くなると思うので、その点は期待したい。
その一方で、いくらハードウエアごとの違いを使う側では気にしなくてもよいようになっているArduino IDEとはいえ、マイコン自体が違うんだから、マイコンの内部機能を使うプログラムは、互換性がない。例えばA/Dコンバータが、UNO R3(ATmega328)では10ビット、UNO R4(RA4M1)では14ビットなので、analogRead()の返り値の範囲が、たぶん異なる。(たぶん、といっているのは、ソフトウエア的に上位互換にすることは可能だけど、それを実装しているかは、現時点ではArduinoIDEがリリースされていないのでわからない、から)ちなみにRA4M1は、データシートによれば電源電圧が5Vでも使えるようなので、UNO R4も5V動作でR3とIO電圧の互換性もある、かもしれない。(かもしれない、といっているのは、回路上は可能なものの、実際にそうしているかは、回路図が公開されていないので、わからない、から)

いずれにしても、ここまで、心臓部のマイコンが異なるArduinoに、"UNO"という名前をつけるのは、相当な議論と勇気、そして大人の事情があったんじゃないかと思う。

2020年6月の「巨大な開発者コミュニティ向けの製品提供を実現へ」が、どれぐらいユーザの方を向いているか、それを支えるものになっているか、そしてユーザがそれをどのように受け入れるか(あるいは新規のユーザ層を開拓するのか)は、正直、まだ判断はできない(そもそもまだ回路図も実物もない)けど、推移を興味深く見守っていこうと思う。

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