サバティカル日記(1:きっかけ)

大学では「サバティカル研修」という制度を設けているところがけっこうあります。日本では2000年ぐらいから、この制度を設ける大学が増えてきた印象です。

サバティカル=研究だけやらせてもらえる

サバティカル研修とは、大学に籍をおいたまま(=お給料はもらったまま)、一定期間、研究に専念させてもらえる制度です。大学教員の仕事は、教育・研究・運営の3つとよく言われますが、教育(=授業、学生指導)と運営(委員会業務など)を免除され、研究に専念させてもらえるものです。私が在籍している金沢大学の場合は、2013年にサバティカル研修規定が策定されています。ちなみに金沢大学では、自己研鑽の一環で、サバティカル研修の取得が推奨されています。サバティカル研修を取得したい人は、計画をきめて申請を出して、認められたら取得する、という流れになります。部局によって、数年先まで待ちがあったり、すぐにでも取得できたりするようです。(計画から申請までの流れについては、追って紹介します。)

サバティカルの業務の交代の手配

もちろん、研究以外をしなくてよい、といっても、実際には、大学院生などの研究指導をまったくしないわけにはいかないので、オンラインでの実質的な指導を継続する場合がほとんどです。また授業も、担当者の交代や開講時期の変更などが必要になります。授業担当の交代には明確なルールはないようですが、担当している授業を別の教員に担当してもらったり(代わりにその人のサバティカル研修を取得するときに授業担当を代わるなどの約束をしておく)、非常勤講師の手配をしたりすることになります。なお金沢大学の場合は、非常勤講師の費用はある程度はサバティカル研修の費用として大学から手当してもらえるようです。

サバティカルはどこでやる?

サバティカル研修を取得して研究に専念するのを、どこでやるのか?ということは、明確に書いていないのですが、少なくとも在籍している大学とは別のところでやる場合が多いようです。研究施設などの環境がより充実している場所や、今までとは気分、環境を変えて研究に取り組む、という意味がありそうです。またこの機会に海外の大学や研究機関に滞在する場合も多いようです。

サバティカルとお金

サバティカル研修の期間中は、在籍している大学からお給料はもらえます。通勤手当がもらえない、など細かい違いはありますが、基本的にはお給料はもらえます。ただし生活費が別にもらえるわけではありません。食事や趣味の出費は、サバティカル研修でなくてもかかるので、これは関係ないのですが、住居費はけっこう大きな金額です。サバティカル研修先に家族で住むのであれば別ですが、単身で住む場合(単身赴任のような感覚ですね)は、その住居費がまるまる追加の出費になります。その費用は、いただくお給料の中から支出するか、または自分が使える研究費から支出することになります。これは自分の出張の滞在費を自分の研究費から支出するようなものですね。ただし使える予算費目に制限がある場合が多いようです。あと細かいことですが、最初と最後の旅費は(上限はありますが)支給してもらえる場合が多いようです。またサバティカル研修は研修なので、受け入れ先からお給料をもらうことは認められていない場合がほとんどです。またサバティカル研修期間中の兼業も、サバティカル研修に必要なもの以外は、原則として認められていません。

サバティカルの準備

サバティカル研修を取ろうと思ったら、おおむね以下のような手順で進めます。

1. サバティカル研修を受け入れてくれる先を探す。研修先では客員研究員などの身分になることが多いが、それも含めて、知り合いの先生経由に相談するなど。場合によっては履歴書(CV)やサバティカル研修中の研究計画を作成する。
2. サバティカル研修の期間を決めて、業務代替の手配をする(授業交代など)
3. サバティカル研修の申請を出す
4. サバティカル研修が認められたら、必要な手続きをすすめる(ビザの申請など)

私とサバティカル

私の場合、サバティカル研修の制度は知っていたものの、正直、あまり関心はありませんでした。半導体の研究をしていると言っても、最先端の集積回路技術に関する研究をメインで行っているわけではないですし、特にあこがれる先生や大学があったわけでもありません。関心がなかった、というより、あまり自分のこととは思えなかった、というところでしょうか。

しかしふと、自分が最近研究で興味の対象になっている「Makeと半導体の関係」を考えると、実は「ハードウエアのシリコンバレー」とも呼ばれる中国・深センで、この研究に専念するのは、とても有意義なのではないか、という思えてきました。(余談ですが、ある日、夢の中で、このお告げがあったのを覚えています。誰から告げられたのかは覚えていないのですが・・・)なお私の場合は、後期に授業が集中していて、かつ学生実験など代替が困難なのと、家庭の事情から、サバティカル研修の期間は2020年4月から9月の半年間が現実的かな、と考えていました。

受け入れ先を探す

深センには、深セン大学(Shenzhen University)南方科学技術大学(Southern University of Science and Technology; SUSTech)という2つの大学があります。大学のWebページの教員一覧から研究分野が近い人を探してみましたが、あいにく知り合いの先生はいませんでした。そんな中、南方科技大に知り合いがいる知人がいて、そこの先生を紹介していただく機会がありました。2019年3月に学生をつれて深セン滞在中に、その先生に連絡をとって訪問をすることができました。そこでサバティカル研修の受け入れを打診したところ、快諾をいただきました。南方科技大は創立から10年の新しい大学で、海外の教員(海外の大学で学位を取得した中国人を含む)が多く、2020年の世界の大学ラインキングの一つのTHEで301-350位です。ちなみにこのTHEで大阪大が301-350位、金沢大は801-1000位です。THEの新しい大学のランキングYoung University Rankingだと、南方科技大は35位で、近年急速に研究力を高めている大学です。ちなみに学生はほぼ全員中国人ですが、学部2年生からすべて授業は英語だそうです。受け入れを相談していた先生の所属はSchool of MicroElectronics(SME)で、電子工学科のようなところです。

私からは希望としては、机を一つほしい、ことだけを伝えていました。幸い、私の研究はそれほど大きな設備や場所が必要でもないので、受け入れ先の施設面での負担は小さく、また新しい大学なので海外の大学との連携を求めているのか、話はスムーズに進みました。相談していた先生からは「給料は出せないみたいなんだけど、大丈夫?」(そもそもサバティカル研修では給料をもらえないので大丈夫)「教職員寮が空いてないかもだけど住むところは大丈夫?」(民間アパートを借りるつもりだし大丈夫)など、いろいろと心配をしてくれました。

サバティカル研修の申請

この段階では、ほとんど「口約束」のようなもので、書面で正式な契約を交わしたわけではありませんが、この段階で「サバティカル研修受け入れの内諾を得た」として、サバティカル研修の申請を出しました。申請書に書く情報はけっこうラフで、期間代替が必要な業務(授業担当など)、研究計画(テーマ、受け入れ機関、おおまかなスケジュール)、ぐらいでした。ちなみに私が在籍している金沢大学の理工学域(学部)では、この申請は、個人ではなくて所属している学類(学科)の学類長(学科長)から提出することになっていて、学域(学部)で申請をとりまとめる流れになっています。また申請は6月末ごろまでに行い、審査がされて、10月上旬に正式決定(承認)される、というスケジュールのようです。

ここから先の手続きの流れについては、次回の「サバティカル日記(2:申請からの手続き)」に書きます。

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