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新型コロナウイルスで、全例検査をするべきではない理由

東京都では連日新規感染者が増え続けています。
医療従事者の中にも感染がジワジワと広がってきており、少しずつ事態の深刻さに気づいてきている人がいる一方、まだまだ軽く考えている人が多い印象です。

医者であっても、そんなに大したことじゃないと考えている人もまだいます。

年度末も終え、日本の政治家たちも緊急事態宣言が出しやすい状態になりました。

緊急事態宣言に大して中身がないことは問題ですが、国民にことの重大さを知らせるくらいの効果はあるはずです。

医療崩壊を防ぐために、すぐに動き出してくれることを願うばかりです。

僕が医療活動をしていたラオスでは、国内感染者が10人以下の段階で、首相が都市のロックダウンを宣言、本日から実行予定です。
英断だと思います。

検査について

国民の中に不安が強くなると、今度は一転して国民全体が不安に包まれることになると思います。

そのような事態になると、一部の人が病院に殺到、検査を求めるというような事態になることも想定されます。

孫さんや、三木谷さん、WHOのテドロスさんまで検査検査と言っています。

テドロスさんはどんな人なのか知りませんが、孫さん、三木谷さんはそんなにバカじゃないと思うのですが…

全例検査をした場合にどうなるかは、容易に想像できるはずです。

まず前提の話を少ししたいと思います。

前提①

散々メディアでも言われているので、聞いたことがある人も多いと思いますが、検査の結果の解釈には4つのパターンがあります。

検査自体の結果としては、陽性と陰性の2つがありますが、
陽性=新型コロナウイルス感染者。ではありません。

偽陽性、偽陰性という言葉を聞いたことがありますか?

文字通りですが、偽陽性とは偽物の陽性、つまり検査では陽性だが、新型コロナには感染していないということです。

同様に、偽陰性は検査では陰性だけど、新型コロナに感染しているということです。

検査の結果としては陽性と陰性がありますが、
陽性の中には真の陽性と偽陽性が、
陰性の中には真の陰性と偽陰性があるということです。

まだ十分な量の検査がされていないので、これがどのくらいの割合で起こっているのかはわかっていませんが、高くても70%くらいの正確さなのではないかと考えられています。

(感度、特異度という概念があるのですが、わかりにくくなるため、ここでは割愛します。)

以上を簡単にいうと、検査をすることはできるけど、正確さは良くて7割といったところで、感染しているかどうかは、検査をしてもハッキリはわからない。ということです。

前提②

日頃、皆さんは病院にかかるときに、少し待ち時間が長かったり、紹介状が必要だったりすることはあるにせよ、診察してもらえない、ということはまず考えないと思います。

日本は世界でも類を見ないくらい、病院に対するフリーアクセスが強いです。
つまり、誰でも、どこの病院でも、好きなときに受診できるということです。

そして、日本の医療が世界トップクラスだとも思っているでしょう。
実際にトップクラスに入る医療体制が整えられています。

以上のようなことから、日本人は病気になったら、病院で何とかしてくれる。
日本で病院にかかれないなんてことはない。という意識が強いと思います。

感染症に対しても、日本の、しかも東京にいれば、大学病院や大病院がいくつもあり、どこでも最先端の医療が受けられると考えている人が多いでしょう。

しかし、本当に感染症を専門的に診れる病院は限られています。
医師の力量というよりは、例えば気圧をコントロールできる病室があるか、などハードの面でのことが大きいですが、平時ではそんなに必要のない設備です。
このような設備に多額の投資をしている病院は非常に限られています。

最近はメディアで報道もされていますが、現在、東京であってもそのような専門病床は200以下です。
現在、まずは500、そして最終的には4000を目指して増床しているところではありますが、日々感染者数が増えていく中、今後は重症者のみ入院とさせ、軽症者は自宅で療養する必要がでてきます。
(4月1日現在は、検査陽性者は全例入院となっています。)

つまり、患者がさらに増加した局面では、検査の結果が陽性になったとしても、軽症であれば入院することはできず、帰宅しなければならないということです。

検査が陽性の場合

前述したように、まず前提として

①検査をしても新型コロナに感染しているかどうかはハッキリわからない

②検査結果が陽性になったとしても、軽症であれば帰宅しなければならない

ということがあります。

では本題に入ります。

皆さん、自分が風邪の症状がでたと想像してみてください。
熱を計ると38度あります。
身体もかなりダルいです。
味覚も少しおかしいような気がします。

当然、新型コロナのことがすぐに心配になります。

あなたはすぐに病院に行き検査を希望します。

…結果は、陽性でした。

あなたは不安になり、パニックになりそうになります。
でも、まだ普通に歩くことができ、飲食をすることもできます。

重症ではありません。
つまり、新型コロナの検査で陽性だったにも関わらず、このまま家に帰らなければなりません。

家には配偶者と、子供、高齢の両親も住んでいます。

自分のことも心配ですが、このまま帰宅して、家族、特に両親にうつしてしまったら大変です。

あなたなら、どうしますか?
そのまま家に帰りますか?
帰れますか?

どうやって家族から自分を隔離しよう。
トイレやお風呂は1つしかないな。
一体どういう状態になったら病院に行けばいいのか。
重症化はどのくらいするのか。

自分は死ぬのか…

頭の中にはいくつもの考えがめぐるでしょう。

医療従事者の立場

では、逆にあなたが、このような患者を診察した医師だったらと考えてみてください。

患者は不安でパニックになっています。

高齢の両親と一緒に住んでいるから帰るわけにはいかないと、涙ながらに訴えてきます。
入院させてくれるまでは帰らないと叫ぶかもしれません。

それでも帰るように説得すると、自分や両親にもしものことがあった場合に責任を取れるのかと声を荒らげてきます。

何とか説得して帰宅させたとします。

それでも、その人がどうなるか気になるでしょう。
そして、このような患者が一定数を超えると、実際に重症化する人、亡くなる人も出てくるでしょう。

軽症で帰宅した患者の家族に感染が広がることも当然起こります。
そして、その中から重傷者、死者も出るでしょう。

このような中で、患者はどんどん増えてくる。
同僚の医療従事者にも感染は広がります。
寝る時間も、休みもなくなります。

このような状況で何日耐えることができますか?

現場の医師にこのような判断をさせることは難しいと判断して、入院するか、帰宅するかをシステマチックに分ける方法も考えられるかもしれません。

年齢や、体温、血圧などのバイタルサイン、検査結果から重症度を判定する方法です。
しかし、他にも基礎疾患の有無や、その重症度、さらには社会的背景や、家族構成、家の構造などなど、考慮する要素が多すぎます。

そして、このような判定方法を用いたとしても、それと患者が納得して帰るかということはまったく別の話です。

検査が陰性の場合

…結果は、陰性でした。

あなたは心の底からホッとします。

しかし、医師からは、検査は陰性だが偽陰性の可能性もあると説明を受けます。

新型コロナに感染している可能性があるから、一切外出せず、家族とも接触せず2週間自らを隔離するように指示されます。
万が一、症状が悪化した場合には連絡するように言われます。

あなたは、この指示を守り、2週間自宅で安静にしていることができますか?
週末の外出自粛だけでも、コロナ疲れなどを訴える人もいます。
仕事も急遽2週間休まなければなりません。

大企業に勤めているのなら大丈夫かもしれませんが、小さな会社でなんでもやらないといけない状況かもしれません。
自分で事業をやっており、自分が動かないとすべてが止まってしまうかもしれません。

パートやアルバイトであり、働かなければ収入がゼロになるかもしれません。

一人暮らしなら、家の中にあるもので2週間飢えをしのがなくてはいけません。

あなたは医師の指示を守り、2週間自宅で安静にしていることができますか?

全例検査をするための最低条件

どうでしょう?
もう何となく、全例検査はやるべきじゃないな…と思ってもらえたのではないでしょうか。

この全例検査をやっても混乱を来さないためには、

①検査が陽性だったとしても、軽症であれば自宅待機をする。

②検査が陰性だったとしても、2週間の自宅待機をする。
(2週間というのは、現時点での情報を元に妥当と思われる期間です。今後変わってくる可能性は十分にあります。)

これを全国民が100%できるということが最低条件になります。

さらに、これは検査にかかる、医療従事者の労力、実際のコスト、こういったものを全部無視しての条件です。

実際には、問診やバイタルの測定、検体の採取、実際の検査、結果説明、薬の処方などの作業を要します。

一人の患者に対して、これらを15分で終わらせたとしても、1時間で4人しか対応できません。

この中に重症者がいれば、その患者の入院手続きなども必要になるでしょう。

さらに、すでに入院患者もいるはずなので、そちらの対応も必要です。
いつ何時急変するかもわかりません。

そして、今回の騒動が大きすぎて、みんなあまり意識していないでしょうが、病院には新型コロナの患者さんだけがいるわけではないです。

他にも重大な病気で入院している人、がんで手術を待っている人もいます。
交通事故で突然運ばれてくる人もいるでしょう。

この騒動の前から、過酷な状況で勤務し続けている医療従事者はたくさんいます。

例え、孫さんや三木谷さんが、誰でも1秒で判定できる検査キットを低価格で量産することに成功し、さらに正確性が向上したとしても、全国民が上記のような振る舞いをできなければ、現場は混乱をきたすだけです。

このような状況を避けるためには、とにかく感染のスピードを遅らせて、いわゆる医療崩壊を防がなくてはなりません。

いずれ感染が拡大することは避けられないでしょう。
しかし、医療体制の強化が先に進み、重傷者に適切に医療資源が分配される状態が維持できれば、被害を最小限にすることはできます。
(トータルでの感染者数に関しては、残念ながらこの方法で抑制することはできないと考えられます。)

これが、全例検査をするべきではない理由です。

なるべく具体的な場面を出して、わかりやすく書いたつもりなのですが、いかがでしょうか。

そして、もう気づいている方もいるかもしれませんが、

上記の、全例検査をやっても混乱を来さないための最低条件をもう一度見てみましょう。

検査が陽性だったとしても、軽症であれば自宅待機をする。

検査が陰性だったとしても、2週間の自宅待機をする。

気づきましたか?

検査が陽性でも軽症なら自宅待機。

陰性でも自宅待機。

つまり、重傷者でない限りは、検査結果がどうであれ、自宅待機なんです。

もちろん、急速に病気が進行して亡くなる方も出てきています。

海外では若い方の死亡例も出てきています。

適切なタイミングで病院を受診することは大切です。

このあたりの見極めは、正直難しいと言わざるを得ないです。

まだまだ、わからないことの方が圧倒的に多い、新型コロナウイルス。

その解明のためにも、なるべく時間を稼ぐ必要があります。

より多くの人が、現状を理解し、適切な行動を取ってくれることを願っています。

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