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プロット(2018/04/20.doc)

「有名になりたい」が後輩の女の子の口癖だった。有名になる前に彼女は、飛び降り自殺をして幽霊になってしまったわけだけど。後輩と言っても私が大学を卒業してから入学したので入れ違いになっている。そんな彼女と私を繋いだのは2人の共通の女の子であった。私が「Plastic Treeというバンドが好き」と話したら、同じくバンドが好きな後輩を呼んでファミレスで顔合わせをすることになった。

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とても肌の白い子だなと思った。話を聞くと両親の離婚、家庭の不調和。人生の生き辛さを感じて今まで生きてきたそうだ。彼女の腕をちらっと見ると無数の切り傷が刻まれていた。何気ない付き合いが2年ほど続いた8月9日。私と彼女は児童公園で水風船を割ることになった。

水風船に嫌いな人の名前や、今まであった憂鬱な記憶を書いて、思いっきり割ってやろうと企画したものだ。たぶん、気付かなかったけど、彼女は水風船に自分自身の名前を書いてしまったのではないか。だから、水風船と同じように、一瞬だけ飛沫を上げて消えてしまったんじゃないかって。

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その日の帰り、サイゼリヤで夕飯を食べているときのことだ。「今、事務所から歌手としてスカウトされていて、契約すれば絶対にデビューできるんですって。ボイストレーニングやプロデュース費で70万かかるんですけど、費用はお母さんの彼氏が出してくれるみたいなんで今から聞いてみますね」とおもむろに電話で聞き始める。

そんなのあからさまに詐欺だと決まっているし、そんな大事な話を電話で話す無神経さに呆れてしまった。数ヵ月後、彼女から「詩集の本を作りたい」という相談があった。自分が以前から文学フリマなどの文芸頒布イベントで同人誌を作っていたこともあって、構成や装丁などのアドバイスを聞きたかったのだろう。

最初は自分も手伝う気になっていたけど、まだ何も決まっていない段階で「詩集を作りますー」とか「いくらでならみんな買いたいですか?」とSNSで呟くのを見る度に、彼女は「有名になりたい」んじゃないと気付く。伝えたいことがあるわけじゃない。中身が伴うことをしたいわけでもない。ただ、誰かにちやほやされたいだけの承認欲求なんだと思ったその瞬間から、自分は彼女への興味がなくなってしまった。

LINEやツイッターのリプを無視していると「自分がなにかしてしまったのかもしれませんが、理由がわからず困惑しております。秋助さん頼りに詩集制作するのは諦めることにしましたし、Twitterもブロックさせていただきました。今までありがとうございました」とLINEが。

4月20日。彼女の死に気付いたのは何気ない気持ちからだった。今どうしてるのかと思ってツイッターで彼女のアカウントを検索する。メイン垢はブロックされているのでサブ垢で彼女のツイートを確認すると「飛び降ります もし生きてたらまたかまってください」と呟いていた。

いつもの死にます詐欺だろうと思って特に気にすることはなかったが、リプ欄に彼氏が「本当に亡くなったこと。お墓はしばらく決まらない」という旨が書いてあった。言葉を失う。彼氏と連絡を取ってお線香をあげたい。と、彼女の母親の連絡先を教えてもらって家にお邪魔することになった。

マンションの6階を眺めて、この高さから飛び降りたら、人は死ぬ。そんな当たり前のことに今さら気付き、そして驚く。空が青くたって、電車の中で赤ちゃんが笑ったって、お気に入りの傘を買った次の日が雨だって、人は死ぬ。いつか失う。永遠なんて、どこにもないのだと。

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652