早起きの神器
最近、目覚まし時計のライデンを買った。けたたましい音をかき鳴らしてどんなに気持ちの良い夢もぶち壊し、現実におはようさせてくれる文明の利器だ。
ーーー
これには修行中にもお世話になった。北陸地方にある某寺院で修行をしていたのだけれど、そこはとりあえず朝が早かった。
基本は3時半で、真冬は4時半ぐらい。当番とかの都合で早い時は2時前とか1時ぐらいに起きたこともあった。起きて坐禅に向かう途中で外を見て「今日は星が綺麗だな」と思ったこともしばしば。朝が早いというより、夜中に起きるという方が正確だ。
こんなふざけた時間に自力で起きるのは不可能だ。一応時計はあったのだが、「ピッピッピ」ぐらいの可愛い音がなるやつで、あまりにも心もとない。
何人か一緒に寝ていれば誰かしらがゴソゴソ動き出して起きられるのだが、個室だったり二人部屋になると厳しい。寝過ごしてしまうリスクしかない(寝過ごすことを業界用語だか知らないが「寝散らす」と言っていた)。ライデンを入手することが喫緊の課題となった。
入手方法は、「親に持ってきてもらう」だった。
ケータイは使えないし、電話も使えないところだったが、手紙は一ヶ月半ほどしてからはOKになった。親がちょうど修行道場に来る予定があるということだったので(面会はできた)、手紙の中で「ライデンを買ってきてください」と書いて送った。
数日後、返信が来た。
「ライデンとはなんですか」
それぐらいググれ。と思ったが、とりあえず「目覚まし時計です」と書いて送り返した。そうして親がやってくる日が来た。
「はい、ライデン」
そう言って渡されたのはちゃちいアナログの時計だった。
「いや、これライデンじゃないでしょ」
そう返すと、
「え、ライデンって目覚まし時計のことじゃないの?」
不思議そうな面持ちで言われた。
まさかライデンが一般名詞として伝わっていたとは。
どこに目覚まし時計のことをライデンと呼ぶやつがいるのか。最近の若者言葉だと思われたのか。造語する人間すべてを恨もうか。
後日、ちゃんと固有名詞のライデンが届いた。初めからこうすれば良かった。いや、それはそれで結局別物が送られてきただけになっただけか。
ーーー
新しく買ったライデンは少し華奢な感じだが、音は火災報知器顔負けだ(聞いたことはない)。間違いなく眠りから起こさせてくれる。
ただ、音が大きすぎて親から「うるさい」とクレームが入ってしまった。
仕方がないので、ライデンが鳴るよりも少し前の時間にスマホのアラームをセットすることにした。
鳴る前に起きて止める。
ライデンとの静かな戦いは始まったばかりだ。
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